量記号

Quantity Symbols

 物理学において,物理量(長さ,質量,時間など)を数式内で表現するために用いられる記号を量記号と呼ぶ。これらは国際標準化機構(ISO)および国際電気標準会議(IEC)が策定した ISO/IEC 80000 規格により(以下国際規格という),世界共通の表記ルールが定められている。なおこのページでは量記号のほか物理定数,数学定数も扱う。

物理で用いる記号

用いる文字体系

 物理学で用いる記号は,主にラテン文字(アルファベット)とギリシャ文字の二つの系統で構成される。そのほか,特に電磁気学などで古くドイツで用いられていたフラクトゥールを使用する例が古い文献にみられる場合がある。

ラテン文字

 ラテン文字(アルファベット)は,一般的な物理量,定数,変数を表す際に最も広く使われる。歴史的には,近代物理学がヨーロッパで発展・体系化されたため,必然的にラテン文字が選ばれた。主として英語,ドイツ語,フランス語,ラテン語の4つの言語に由来している。

英語

 第二次世界大戦後,アメリカを中心とした英語圏が科学技術を牽引したため,物理学のほとんどが英語をもとに構成されてきた。現代の国際標準(ISOなど)も英語をベースに整理されている。

  • aa ... Acceleration(加速度)
  • tt ... Time(時間)
  • mm ... Mass(質量)
  • EE ... Energy(エネルギー)
  • WW ... Work(仕事)
  • PP ... Power(仕事率)
ドイツ語

 第二次世界大戦後に科学の拠点がアメリカへ移るまで19世紀のドイツが熱力学や統計力学において世界を席巻し,量記号としてもドイツ語が採用された過去がある。一部は現代でも世界標準として使われている。

  • WW ... Wahrscheinlichkeit(確率)
  • ZZ ... Zustandssumme(状態和)
  • UU ... Umwandlung(変化/内部エネルギー)なお諸説ある。
フランス語

 普仏戦争で敗戦する頃までのフランスはナポレオン時代とよばれ,科学教育に非常に力を入れていた。エコール・ポリテクニークなどの機関から論文が次々と発表され,電気や熱に関する量はフランス語の用語で記号化されたものも多い。

  • II ... Intensité de courant(電流の強さ)
  • Q ... Quantité d'électricité(電荷の量)
ラテン語

 近代科学が誕生した17〜18世紀,ヨーロッパの学者の共通言語はラテン語だった。ニュートンやオイラーなども論文をラテン語で書いていたため,その名残が強く残っている。英語由来とする説もある。

  • ss ... spatium(距離)
  • ee ... exponentialis(自然対数の底)
  • vv ... velocitas(速度)英語由来(velocity)とする説あり。
  • tt ... tempus(時間)英語由来(time)とする説あり。
  • mm ... moles / massa(質量/物体)英語由来(mass)とする説あり。

ギリシャ文字

 18世紀後半から19世紀にかけて科学が急速に複雑化したことで文字が不足し,ギリシャ文字も用いられるようになった。古代ギリシャは幾何学(ユークリッド)や哲学の源流であり,ヨーロッパの知識人にとってギリシャ語はラテン語とともに必須教養であった。起源・由来は不明なことも多い。

  • λ\lambda ... lambda(波長)
  • ρ\rho ... rho(密度)
  • θ\theta ... theta(角度)
  • μ\mu ... mu(マイクロ/透磁率)

フラクトゥール

 19世紀から20世紀初頭にかけて,ドイツの学術界が黄金期を迎え,通常のアルファベット(ラテン文字)とは別の,より高度な概念を区別するために導入された。現在は可読性を優先して現在のサンセリフ体やローマン体への統一に繋がった。

  • H\mathfrak{H} ... Hamiltonian(ハミルトニアン)現代では HH だが,古い量子力学の論文ではエネルギー演算子としてフラクトゥールが使われることがあった。
  • E\mathfrak{E} ... Entropy(エントロピー)クラウジウスやボルツマンの古い文献で,通常の状態量とは別の特別なエントロピー概念として使われる例がある。
  • v\mathfrak{v} ... Velocitas(速度)オイラーの時代以降も,通常の速度 vv ではなく相対速度や特定の座標系での速度を区別するために使われた。
  • K\mathfrak{K} ... Kraft(力)ベクトルの力として定義される際に使われた。
  • I\mathfrak{I} ... Imaginary part(虚部)複素数の虚数部分を取り出す記号として,実部を表す R\mathfrak{R} (Real part) とセットで使われた。現代の数学書でもこの名残が見られるが,Im\mathrm{Im}(実部はRe\mathrm{Re})と置き換えられている。
  • ラテン文字

    • 小文字:a\mathrm{a}(エー),b\mathrm{b}(ビー),c\mathrm{c}(シー),d\mathrm{d}(ディー),e\mathrm{e}(イー),f\mathrm{f}(エフ),g\mathrm{g}(ジー),h\mathrm{h}(エイチ),i\mathrm{i}(アイ),j\mathrm{j}(ジェー),k\mathrm{k}(ケー),l\mathrm{l}(エル),m\mathrm{m}(エム),n\mathrm{n}(エヌ),o\mathrm{o}(オー),p\mathrm{p}(ピー),q\mathrm{q}(キュー),r\mathrm{r}(アール),s\mathrm{s}(エス),t\mathrm{t}(ティー),u\mathrm{u}(ユー),v\mathrm{v}(ブイ),w\mathrm{w}(ダブリュー),x\mathrm{x}(エックス),y\mathrm{y}(ワイ),z\mathrm{z}(ゼット)
    • 大文字:A\mathrm{A}(エー),B\mathrm{B}(ビー),C\mathrm{C}(シー),D\mathrm{D}(ディー),E\mathrm{E}(イー),F\mathrm{F}(エフ),G\mathrm{G}(ジー),H\mathrm{H}(エイチ),I\mathrm{I}(アイ),J\mathrm{J}(ジェー),K\mathrm{K}(ケー),L\mathrm{L}(エル),M\mathrm{M}(エム),N\mathrm{N}(エヌ),O\mathrm{O}(オー),P\mathrm{P}(ピー),Q\mathrm{Q}(キュー),R\mathrm{R}(アール),S\mathrm{S}(エス),T\mathrm{T}(ティー),U\mathrm{U}(ユー),V\mathrm{V}(ブイ),W\mathrm{W}(ダブリュー),X\mathrm{X}(エックス),Y\mathrm{Y}(ワイ),Z\mathrm{Z}(ゼット)
  • ギリシャ文字

    • 小文字:α\alpha(アルファ),β\beta(ベータ),γ\gamma(ガンマ),δ\delta(デルタ),ϵ\epsilon(イプシロン),ζ\zeta(ゼータ),η\eta(エータ),θ\theta(シータ),ι\iota(イオタ),κ\kappa(カッパ),λ\lambda(ラムダ),μ\mu(ミュー),ν\nu(ニュー),ξ\xi(クシー),oo(オミクロン),π\pi(パイ),ρ\rho(ロー),σ\sigma(シグマ),τ\tau(タウ),υ\upsilon(ウプシロン),ϕ\phi(ファイ),χ\chi(カイ),ψ\psi(プサイ),ω\omega(オメガ)
    • 大文字:A\mathrm{A}(アルファ),B\mathrm{B}(ベータ),Γ\Gamma(ガンマ),Δ\Delta(デルタ),E\mathrm{E}(イプシロン),Z\mathrm{Z}(ゼータ),H\mathrm{H}(エータ),Θ\Theta(シータ),I\mathrm{I}(イオタ),K\mathrm{K}(カッパ),Λ\Lambda(ラムダ),M\mathrm{M}(ミュー),N\mathrm{N}(ニュー),Ξ\Xi(クシー),O\mathrm{O}(オミクロン),Π\Pi(パイ),P\mathrm{P}(ロー),Σ\Sigma(シグマ),T\mathrm{T}(タウ),Υ\Upsilon(ウプシロン),Φ\Phi(ファイ),X\mathrm{X}(カイ),Ψ\Psi(プサイ),Ω\Omega(オメガ)
  • ドイツ文字(フラクトゥール)

    • 小文字:a\mathfrak{a}(アー),b\mathfrak{b}(ベー),c\mathfrak{c}(ツェー),d\mathfrak{d}(デー),e\mathfrak{e}(エー),f\mathfrak{f}(エフ),g\mathfrak{g}(ゲー),h\mathfrak{h}(ハー),i\mathfrak{i}(イー),j\mathfrak{j}(ヨット),k\mathfrak{k}(カー),l\mathfrak{l}(エル),m\mathfrak{m}(エム),n\mathfrak{n}(エヌ),o\mathfrak{o}(オー),p\mathfrak{p}(ペー),q\mathfrak{q}(クー),r\mathfrak{r}(エル),s\mathfrak{s}(エス),t\mathfrak{t}(テー),u\mathfrak{u}(ウー),v\mathfrak{v}(ファオ),w\mathfrak{w}(ヴェー),x\mathfrak{x}(イクス),y\mathfrak{y}(イプシロン),z\mathfrak{z}(ツェット)
    • 大文字:A\mathfrak{A}(アー),B\mathfrak{B}(ベー),C\mathfrak{C}(ツェー),D\mathfrak{D}(デー),E\mathfrak{E}(エー),F\mathfrak{F}(エフ),G\mathfrak{G}(ゲー),H\mathfrak{H}(ハー),I\mathfrak{I}(イー),J\mathfrak{J}(ヨット),K\mathfrak{K}(カー),L\mathfrak{L}(エル),M\mathfrak{M}(エム),N\mathfrak{N}(エヌ),O\mathfrak{O}(オー),P\mathfrak{P}(ペー),Q\mathfrak{Q}(クー),R\mathfrak{R}(エル),S\mathfrak{S}(エス),T\mathfrak{T}(テー),U\mathfrak{U}(ウー),V\mathfrak{V}(ファオ),W\mathfrak{W}(ヴェー),X\mathfrak{X}(イクス),Y\mathfrak{Y}(イプシロン),Z\mathfrak{Z}(ツェット)

印刷字体と手書きの違い

教科書の印刷用字体(セリフ体など)と,ノートに書く際の手書き文字は形が大きく異なる。

手書きで書く時の注意点
  • bb は筆記体で書く場合と筆記体ではない斜体で書く場合がある。ベクトル量を表す黒板太字で書く場合は,見やすいように立体を使う場合が多い。
  • gg は役割を明確化させるため,重力加速度など物理量を表すときには線を交差させ,mg\mathrm{mg} などの単位を表すときには交差させずに書く。印刷字体とは異なる点に注意。
  • ll をリットルとして用いる場合には誤読防止のため大文字で L\mathrm{L} と表記する。
  • oo を量記号として用いることは少ないため, 00 とかき分けることは少ない。グラフの原点には大文字の O\mathrm{O} を使用する。
  • rrγ\gamma と非常に見分けにくいため,rr は下から上に棒を引き,一旦止まってから右側に小さく跳ねるように書く。一方で γ\gamma は左上から書き始め,下で結び目を作って右上に抜ける。
  • tt++ と非常に見分けにくいため,tt は短い横棒を書いたのち,縦棒の下部を右側に丸めて書く。
  • uuvv と区別するため,最後の縦棒を下に少し伸ばす。また,μ\muは最初の縦棒をやや下から書いてuuと区別する。
  • vvν\nu と非常に見分けにくいため,
  • wwω\omega と非常に見分けにくいため,wwvv を2つ並べたように尖らせ,ω\omega は真ん中のくぼみを深く書き、最後は内側に少し巻き込むように書く。
  • vv (ラテン文字:速さ)ν\nu (ギリシャ文字:ニュー / 周波数)vv は角を尖らせ,ν\nu は筆記体のように丸みを持たせて書き始めます。
  • ww (ラテン文字:仕事)ω\omega (ギリシャ文字:オメガ / 角速度)ω\omega は丸を2つ並べるように意識し,上部を閉じないように書きます。
  • yy (ラテン文字:座標)γ\gamma (ギリシャ文字:ガンマ / 比熱比)γ\gamma は下部で交差させ,ループを作るのが一般的です。

表記の基本原則

 量記号を記述する際の最も重要なルールは,変数を斜体(イタリック体)にすることである。単位や定数との混同を防ぐことが最大の目的である。

表記上の重要規則
  • 量記号は斜体(イタリック体):物理量を表す記号(m,v,F,tm, v, F, t など)は,必ず斜体で表記する。
  • 単位記号は立体(ローマン体):メートル(m\mathrm{m})やキログラム(kg\mathrm{kg})などは,量記号と区別するため常に立体で表記する。
  • 数学定数・演算子:自然対数の底 e\mathrm{e} や虚数単位 i\mathrm{i} ,微分記号 d\mathrm{d} などは,変数を表す量記号ではないため,原則として立体で表記する。

 この基本原則については,以下のように多くの議論がある。ほとんどは定義と慣習との差異に関する議論である。なお,原則公的に発表ないし提出するときは,まず投稿先の大学,学部,研究科学会,指導教員,分野,雑誌社などの個々の投稿規程に記載の書式を用いることが強く推奨される。あるいは出版論文を手に取って実際に確認するのも手である。しかし一般にISOの基準に従うと,慣習との差があって可読性にある程度影響するほか,ソースが煩雑になって管理しにくいといったデメリットが存在し,この基準によらない書式も多い。

手書きのときに斜体か立体を区別する必要があるか

 上記原則は印刷の際に使用されるため,手書きの場合にただちに適用されるルールではない。しかし手書きの時でも意識することは大事である。なお,後述の通り手書きの時にはさらに注意するべき点がある。

ネイピア数は斜体か立体か

 国際規格では自然対数の底(ネイピア数 e\mathrm{e})を立体で表記する。物理では電子の電荷(ee)を量記号として用いることが多い(しばしばネイピア数とともに数式に使われる)ことから,あえて立体にする動機も強い。しかし,多くの数学の教科書や,数式作成ソフト(LaTeX\LaTeX など)のデファクトスタンダードでは斜体で書かれる。古くから「アルファベット1文字の記号は斜体」という慣習もある。規程に「立体」と指定がある場合は立体にし,その他は斜体にすることが一般的。当サイトでは,指数部分が複雑になることが多いため,exp\exp を使用している。

虚数単位は斜体か立体か

 国際規格では虚数単位(i\mathrm{i})を立体で表記する。一方,多くの数学の教科書では斜体で書かれる。物理では電流(ii)の量記号として用いることが多い(特に電磁気学が複素数なしでは語れないほど劇的に進化した)ことから,これと区別する強い傾向があり,もはや工学系では jj を用いることも多数。一方で古くから「アルファベット1文字の記号は斜体」という慣習もある。ネイピア数同様,規程に「立体」と指定がある場合は立体にし,その他は斜体にする,あるいは斜体の jj を用いることが一般的。なお大文字 II は直流(定常電流)または交流の実効値・最大値に用いるのが一般的なので虚数単位と電流を必ずしも区別できるとは限らない。当サイトでは可読性を優先して斜体を使用し,区別が必要な場合に斜体の jj を用いる。

円周率は斜体か立体か

 国際規格では円周率(π\mathrm{\pi})を立体で表記する。しかしネイピア数同様,多くの数学の教科書や,数式作成ソフト(LaTeX\LaTeX など)のデファクトスタンダードでは斜体で書かれる。π\pi は量記号としては浸透圧を表すとき,あるいは流体力学などの π\pi 定理において,次元を持たない無次元量を表すとき π\pi を用いる場合がある。しかし➀ π\pi というギリシャ文字を量記号として用いる際に円周率を用いることが少ないこと,➁数式作成ソフト(LaTeX\LaTeX など)で π\pi を立体にすることのハードルが高い(パッケージを読み込まなければならず,環境依存のトラブルも起こりやすい)こともあってネイピア数よりも斜体を使う場合が多い。当サイトでは技術的な制約から斜体の π\pi を使用している。

ギリシャ文字の大文字は斜体か立体か

 斜体で国際規格では量記号としてギリシャ文字の大文字を使用する際は斜体で表記し,これに準じて量記号としては斜体で表すのが一般的である。数式作成ソフト(LaTeX\LaTeX など)のデファクトスタンダードでは,ギリシャ文字特有の大文字は立体で書かれ(例:Γ,Δ,Θ,Λ,Ξ,Π,Σ,Υ,Φ,Ψ,Ω\Gamma, \Delta, \Theta, \Lambda, \Xi, \Pi, \Sigma, \Upsilon, \Phi, \Psi, \Omega),慣習としても立体で書かれる場合も散見されるが,そもそもギリシャ文字の大文字を量記号として使うことが少ないこと,円周率のような技術的な壁はほとんどないことなどから,var プレフィックスを使用するなどして斜体に(Γ,Δ,Θ,Λ,Ξ,Π,Σ,Υ,Φ,Ψ,Ω\varGamma, \varDelta, \varTheta, \varLambda, \varXi, \varPi, \varSigma, \varUpsilon, \varPhi, \varPsi, \varOmega)するのが主流。なお量記号の役割ではない(量の変化や差を表す役割をもつ Δ\Delta など)場合は立体で表記する。

微小変化量は斜体か立体か

 国際規格では微小変化量(d\mathrm{d})を立体で表記する。この種の議論の中では「立体にすべきである」という意識をもつ層が比較的多い。距離や厚さを表す物理量として dd を頻繁に使い,dd\mathrm{d} dとすることもまれにある(基本的にはこのような運用は避けるべきではある)上,d\mathrm{d} を変数ではなく微分するという操作(演算子)であることを明確化したいなどの要望も多いからである。特に後者の視点に立つと,例えば dS=8πrdrdS=8\pi rdr などと表すとdrdr が微小変化量か ddrr の積か一見して判別しづらく,虚数単位 ii や円周率 π\pi に比べてそのデメリットがやや大きい。一方で,数学の教科書などでは斜体にする例も非常に多い。規程に「立体」と指定がある場合は立体にし,その他は必要に応じて立体または慣習にあわせて斜体にすることが多いだろう。当サイトでは基本的に斜体の dd を使用するが,先にあげた変数分離法などで可読性を損ねる場合には必要に応じて数式全体にわたって立体 d\mathrm{d} を用いるか,デルタ Δ\Delta を用いる。

物理定数は量記号(斜体)か定数(立体)か

 斜体で表すのが一般的である。国際規格では定数は立体で表記することとなっているが,国際規格で言うところの「定数」とは「数値」を指し,これは単位を伴わないものである。物理諸定数(光速 cc, プランク定数 hh, ボルツマン定数 kBk_\mathrm{B},電気素量 ee, アボガドロ定数 NAN_\mathrm{A}, 気体定数 RR など)は確かに定数であるが,➀単位を伴う量であり(例えば光速 cc299792458[m/s]299 792 458 [\mathrm{m/s}] と表せ,単位がある),➁理論計算のうちでは変数として扱うこともあり(例えば c=1c=1=1\hbar=1 とする自然単位系から通常の単位系に戻す際などで,これらの役割が「物理定数」から「計算の対象となる文字」に変わることがある),この「定数」の中に含まないことが多い。多く「数式は斜体」と指定される範疇であり,当サイトもこれに準じて斜体を用いている。

任意の関数を表す記号は斜体か立体か

 任意の関数を表す記号(例えば f(x)f(x) や波動関数 Ψ(x,t)\varPsi (x, t))は,sin\sin のように機能が決まっている特定の関数ではなく,何らかの関数が入る変数として扱うため,斜体で表す。

下付き文字は斜体か立体か

 変数であれば斜体,それ以外(名前・記号・固定値)は立体で表す。例えば ii 番目,nn 番目,xx 軸方向など,添字自体が変数の役割を持つ場合は CiC_{i}xnx_{n}vxv_{x} と斜体で表す(まれに xx はラベルであって立体 x\mathrm{x} にすべきと主張する派閥もある)。一方で FgF_{\mathrm{g}}(重力の gravity),VinV_{\mathrm{in}}(入力の input),EkE_{\mathrm{k}}(運動エネルギーの kinetic),CpC_\mathrm{p}(圧力 pressure 一定という条件ラベルを表し定数や特徴を示す記述的な添え字であるため立体)を斜体であらわすと,FgF_{g}(重力加速度の gg と混同しやすい),VinV_{in}ii 番目の nn 番目にある系の体積ともよめる),EkE_{k}(変数 kk によって変わるエネルギーの値と誤認しやすい),CpC_p(変数 pp によって変わる比熱と誤認する)となる。数式作成ソフト(LaTeX\LaTeX など)のデファクトスタンダードでは斜体であるため,一貫して斜体が用いられるケースもあるが,surface\displaystyle\int_{surface} よりも surface\displaystyle\int_\mathrm{surface} のほうが可読性が高いというような例もあり,この区別はどのような場合でも求められているといって差し支えない。

ベクトル量は斜体か立体か

 国際規格ではベクトル量は斜体かつ太字である。物理学の分野ではこの基準に則ることが多いが,数学・一部の工学では太字の上で立体が多い。数式作成ソフト(LaTeX\LaTeX など)ではそれぞれコマンドがあるため(前者は \boldsymbol 後者は \mathbf),技術的な負担はほぼ変わらず,ほとんど分野ごとの慣習の差に由来する違いである。なおベクトルがギリシャ文字である場合は立体で太字にするのは極めて難しいため,斜体を太字にするのが主流。

 物理では一般に,斜体になっている量記号を太字にする(重みを付ける)だけでベクトルの区別は十分であり,斜体で変数を表すという書式は維持すべきだと理解されている。また,最初から予約されている立体の文字がすでにあり(先述の定数 e\mathrm{e} など),立体にする必要性が薄いということもある。一方で,ベクトル量は行列や内積の文脈において,ほかの数と特殊な関わりを持つとみる視点からは,立体を用いてスカラー量と異なるように書式を定めるべきという。高校数学・物理では量記号の上に矢印を付して v\vec{v} などとあらわすこともあるが,数式作成ソフト(LaTeX\LaTeX など)のデファクトスタンダードで添え字の場合に矢印幅が足りない,大文字に矢印を付すと行間などに支障がある(例:vx\vec{v_x}F\vec{F})というデメリットもある。いずれにしてもスカラー量とは区別する趣旨であり,当サイトでは斜体にしたうえで太字にする書式を採用している。

ISO 80000 に基づく分野別分類

国際規格 ISO 80000 シリーズでは,各分野で使用されるべき標準的な量記号が以下のように定義されている。

第3部:空間及び時間 (Space and time)

  • 長さ・距離: l,L,d,xl, L, d, x
  • 時間・時刻: tt
  • 速度: v,v\boldsymbol{v}, v
  • 角速度: ω,ω\boldsymbol{\omega}, \omega

第4部:力学 (Mechanics)

  • 質量: m,Mm, M
  • 力: F,F\boldsymbol{F}, F
  • 運動量: p,p\boldsymbol{p}, p
  • 仕事・エネルギー: W,E,K,UW, E, K, U
  • 圧力: p,Pp, P

第5部:熱力学 (Thermodynamics)

  • 熱力学温度: TT
  • 熱,熱量: QQ
  • エントロピー: SS
  • 内部エネルギー: UU

第6部:電磁気 (Electromagnetism)

  • 電流: I,iI, i
  • 電荷・電気量: Q,qQ, q
  • 電圧・電位: V,U,ϕV, U, \phi
  • 電場・磁場: E,B\boldsymbol{E}, \boldsymbol{B}

第10部:原子物理学及び核物理学 (Atomic and nuclear physics)

  • 原子番号: ZZ
  • 質量数: AA
  • 半減期: T1/2T_{1/2}
  • プランク定数: h,h, \hbar

3. ISO 80000 規格一覧(第2版)

現在の物理学教育および実務において準拠すべき最新の規格(2019年〜2022年発行)の概要です。

規格番号発行年対象分野英語タイトル
ISO 80000-12022一般General
ISO 80000-22019数学記号Mathematics
ISO 80000-32019空間及び時間Space and time
ISO 80000-42019力学Mechanics
ISO 80000-52019熱力学Thermodynamics
IEC 80000-62022電磁気Electromagnetism
ISO 80000-72019光及び放射Light and radiation
ISO 80000-82020音響学Acoustics
ISO 80000-92019物理化学Physical chemistry
ISO 80000-102019原子・核物理Atomic and nuclear physics

※ 本サイトの記述は原則として上記国際標準に準拠していますが,日本の高校物理教科書等で慣習的に用いられる独自の記号についても,必要に応じて注釈を加えています。