2-1-1. 熱平衡と温度
問題 A1経験温度と物質の熱膨張
標準大気圧下において,氷と水が熱平衡にあるときの温度(氷点)と,水と水蒸気が熱平衡にあるときの温度(沸点)を基準とし,その間を 等分したものがセルシウス温度(いわゆる摂氏温度)における の初期定義である。一方,その定義に従う は,現代の厳密な定義によると であることがわかっている。
ある物質の体積 が温度に対して線形に変化すると仮定し,現代の厳密な定義により測られた真の温度 における体積を とする。氷点 での体積を ,沸点 (なお とする)での体積を としたとき,この物質を用いた温度計が示す経験温度 は,初期定義に従い次のように求められる。
いま,完全に線形な理想的な感温液を考える。このとき経験温度 は次のように求められる。
しかし,実際の物質の体積は温度に対して完全に線形には変化しない。現代の厳密な定義によれば,標準大気圧下での水銀,エタノール,水の各物質の体積 ,, は真の温度 を用いて次のように近似できることがわかっている。
ここで, はすべて正の定数であり, は各物質の における体積である。次の問いに答えよ。
水銀を用いた温度計が示す経験温度 と との差 を, を用いて表せ。また,この差の絶対値 が最大となる真の温度 を求めよ。
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水銀の体積 を経験温度の式に代入する。
理想スケール との差 は,
の範囲において であり, より である。 の2次関数として平方完成すると,
よって, は のとき最小値(絶対値としては最大値)をとる。
水は,ある条件においては感温液として著しく適さないことがわかっている。真の温度 が の範囲にあるときの水の体積変化の特徴を,平方完成を用いて説明せよ。また,その結果から,なぜ水が温度計の感温液として適さないかを述べよ。
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水の体積 について,式を で平方完成する。
であるため,グラフは下に凸の放物線となり, のとき体積は最小(密度が最大)となる。 したがって, の範囲では温度が上がるにつれて体積が減少し, の範囲では体積が増加する。 (説明):温度計は体積から温度を一意に読み取る装置であるが,水を用いると,体積が最小となる温度を挟んで同じ体積を示す異なる2つの温度が存在してしまい,温度を一つに特定できないから。
水銀の体積膨張における2次の係数 は,エタノールの係数 に比べて相対的に非常に小さく, である。一方,エタノールは の影響が無視できない。真の温度 のとき,水銀とエタノールそれぞれの理想スケールからのズレの絶対値 と をそれぞれ求め,歴史的に水銀が温度計の感温液として広く採用された理由を「線形性」という言葉を用いて簡潔に述べよ。
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問1の結果より, のとき であるから,水銀のズレの絶対値は
エタノールについても同様に係数を置き換えて,
水銀は より が非常にゼロに近くなるため, はきわめて小さい。一方エタノールは が比較的大きいため は大きくなる。よって となる。 (理由):水銀は温度変化に対する体積変化の2次以上の項が極めて小さく,広範囲で線形性が高いため,目盛りを等間隔に刻むだけで直感的な経験温度と真の温度のズレが少なく,正確な測定が容易だったから。
実際に温度計を作成する場合,感温液だけでなくガラス容器自体の膨張も考慮しなければならない。 等方性の固体の長さ が のもと で表されるとき,体膨張率 と線膨張率 の関係を示せ。 さらに,ガラスの体膨張率を ,水銀の体膨張率を ,初期体積を としたとき,温度 における見かけの体積変化量 を を用いて表せ。ただし各々の体積変化は1次近似 に従うものとする。なお微小量 に対し, 以上の高次項は無視してよい。
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体積 の展開は以下のようになる。
であり, 以上の項を無視すると,
体膨張率 の定義式 と比較係数すると, が導かれる。
ガラス容器の温度 での容積は であり,水銀の温度 での真の体積は である。 見かけの体積変化量 は,水銀の膨張分から容器の膨張分を差し引いたものであるため,
(答) 前半:導出略(上記参照),後半:
標準大気圧下において,氷と水が熱平衡にあるときの温度(氷点)と,水と水蒸気が熱平衡にあるときの温度(沸点)を基準とし,その間を100等分したものがセルシウス温度(いわゆる摂氏温度)の初期定義である。しかし歴史的に,当時の経験温度として定められた「標準大気圧下での水の沸点100」は,現代の厳密な熱力学温度スケール(ITS-90等)に照らし合わせると,正確には であったことがわかっている。いかに当時の物理学が経験的な観察に依存しており,のちに理論武装されていったかが窺える。
ある物質の測温物性(例えば体積 )が温度に対して線形に変化すると仮定し,厳密な熱力学スケールで測られた真の温度 における体積を とする。氷点 での体積を ,沸点 (前述の通り とする)での体積を としたとき,この物質を用いた温度計が示す経験温度 は,初期定義に従い次のように求められる。
一方,完全に線形な理想的な感温液があったとすれば,その理想的な経験温度 は となるはずである。 しかし,実際の物質の体積は温度に対して完全に線形には変化しない。現代の精密な観測とヘルムホルツ自由エネルギーの状態方程式やRackettの式等を用いた多項式近似によれば,標準大気圧下での各物質の体積 は,真の温度 に対して以下のように近似できることがわかっている。
ここで, はすべて正の定数であり, は各物質の における体積である。これらを踏まえ,次の問いに答えよ。
水銀を用いた温度計が示す経験温度 と,理想スケールとの差 を, を用いて表せ。また,この差の絶対値 が最大となる真の温度 を微分を用いて求めよ。
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水銀の体積 を経験温度の式に代入する。
理想スケール との差 は,
とおき, で微分すると,
となるのは のときであり, の範囲で は最小値をとる。 の係数は正であるため,このとき は負の最大値(絶対値としては最大)をとる。
(答) ,
水を感温液として用いた場合,氷点付近の温度測定において致命的な欠陥がある。真の温度 が の範囲にあるときの水の体積変化の特徴を,導関数 を用いて説明せよ。また,その結果から,なぜ水が温度計の感温液として適さないかを述べよ。
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水の体積 を で微分すると,
となるのは のときである。 の範囲では となり体積は単調減少し, の範囲では となり体積は増加に転じる。すなわち で密度が最大(体積が最小)となる。 (説明):温度計の目盛りは体積に対して一意の温度を定める必要があるが,水を用いると極値を持つため,最小体積を与える温度を挟んで同じ体積を示す異なる2つの温度が存在してしまい,単射性が失われ温度が特定できなくなるから。
水銀の体積膨張における2次の係数 は,エタノールの係数 に比べて相対的に非常に小さく, である。一方,エタノールは の影響が無視できない。 真の温度 のとき,水銀とエタノールそれぞれの理想スケールからのズレの絶対値 と を比較し,歴史的に水銀が温度計の感温液として広く採用された理由を,「線形性」という言葉を用いて簡潔に述べよ。
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問1の結果に を代入すると, となる。水銀のズレの絶対値は
エタノールについても同様に,
水銀は のため分母の が支配的になり,全体として極めて0に近い値をとる。一方でエタノールは が比較的大きいため は無視できない大きさになる。ゆえに である。 (理由):水銀は温度変化に対する体膨張の2次以上の非線形項が非常に小さく,広い温度範囲で高い線形性を示すため,等間隔の目盛りを振るだけで真の温度とのズレが小さく,正確な経験温度計を作りやすかったから。
実際に温度計を作成する場合,感温液だけでなくガラス容器自体の膨張も考慮しなければならない。 等方性の固体の長さ の微小な温度変化 に対する変化率(線膨張率)が で定義されるとする。一辺 の立方体の体積 を で微分し,合成関数の微分則を用いて,体積の微小変化率(体膨張率) が となることを導け。 さらに,ガラスの体膨張率を ,水銀の体膨張率を ,初期体積を としたとき,温度 における見かけの体積変化量 を を用いて表せ。(ただし微小変化による1次近似 を用いる)
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体積 の両辺を温度 で微分すると,連鎖律(合成関数の微分則)より,
両辺を で割ると,
定義より , であるから,これを代入して
を得る。
ガラス容器の温度 での容積は ,水銀の温度 での真の体積は である。 見かけの体積変化量 は,水銀の膨張分から容器の膨張分を差し引いたものであるため,
(答) 前半:導出略(上記参照),後半:
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セルシウスが最初に温度スケールを考案した1742年当時,彼は水の沸点を ,氷点を と定義していた(現在の定義とは逆であった)。後にカール・フォン・リンネらがこれを反転させ,今日我々が用いる摂氏スケールが確立された。当時は純粋な物理的実体としての「熱力学温度」という概念はなく,特定の物質(水銀など)の体積膨張などのマクロな性質に依存した「経験温度」しか存在しなかった。
問題で触れたように,経験温度は採用する感温液の性質によって指示値にズレが生じる。アルコール(エタノール)は凝固点が低く寒冷地での測定には適しているが,沸点が低く(約 ),さらに体積膨張が非線形であるため高温でのズレが大きい。一方で水銀は,沸点が高く(約 ),なによりその膨張の「線形性の良さ」が際立っていたため,長らく温度計の標準として君臨した。
やがて熱力学の発展に伴い,カルノーサイクルや気体分子運動論を経て,物質の固有の性質に依存しない絶対的な「熱力学温度(絶対温度)」が定義されるようになった。現代の国際温度目盛(ITS-90)では,水銀の密度公式や水の密度公式(ヘルムホルツ自由エネルギーに基づくより複雑な多項式)などを用いて高度な補正が行われている。これにより,かつて「」と定められていた標準大気圧下の水の沸点が,真の熱力学スケールにおいては約 であったことが判明したのである。 水銀温度計はその後,水銀の強い毒性に対する環境的配慮や,白金測温抵抗体などのより精密で理論的根拠のある電子的な測定法の確立により,第一線からは退いた。しかし,その偶然にも恵まれた線形性が,初期の物理学や熱力学の法則(シャルルの法則など)の発見を大きく助けた歴史的功績は計り知れない。
問題 A2水銀柱による圧力測定と温度補正
17世紀,トリチェリの実験により,大気圧は真空中のガラス管に柱状に持ち上げられた水銀柱の高さとして測定できることが示された。これを応用したのが水銀気圧計である。特に後年発明されたフォルタン気圧計では,下部の水銀槽が皮袋となっており,水銀面移動ねじで押し上げることで,気圧や温度が変化しても原点となる水銀面の高さを常に一定にそろえることができる。これにより標準大気圧下での比較が可能になり,水銀柱の高さ を正確に測ることができるようになった。また同じ原理で,人体の血圧を測る水銀血圧計も生み出された。
本来,水銀柱の高さは力学的な圧力を測る指標であるが,水銀が熱膨張する性質を持つため,温度によっても高さが変わる。つまり,圧力が一定の環境下では温度計として機能し,逆に純粋な圧力を測りたい場合は温度による変化を補正しなければならない。これをもとに,次の問いに答えよ。
血圧の単位には,現在でも (水銀柱ミリメートル)が用いられている。例えば血圧が であるとき,血管内の圧力が大気圧に比べて の水銀柱が底面に及ぼす圧力分だけ高い。いま, での水銀の密度を ,重力加速度の大きさを ,水銀柱の高さを とする。このときの血圧と大気圧の圧力差 を を用いて表せ。また,標準大気圧 を とすると,血圧 の圧力差は標準大気圧の何倍にあたるか,有効数字 桁で求めよ。
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底面積を とすると,高さ の水銀柱の体積は ,質量は である。この水銀柱が底面に及ぼす力は となり,圧力差 は単位面積あたりの力であるから, 標準大気圧 を生み出す水銀柱の高さが であり,血圧が であるから,その比は高さの比に等しい。
倍
フォルタン気圧計を,大気圧が常に標準大気圧 に保たれた特殊な部屋に置いたとする。このとき,部屋の温度 (セルシウス温度)が変化すると,水銀の熱膨張により密度が変化し,大気圧と釣り合う水銀柱の高さ も変化する。この を温度特性 とみなせば,この気圧計は温度計として振る舞う。体膨張率を とし, のときの体積を であるような質量 の水銀の体積は温度 において
にしたがって膨張するとする。温度 における水銀の密度 を, での密度 と を用いて表せ。さらに,温度 における水銀柱の高さ を を用いて表せ。また, のときの高さを としたとき, を を用いて簡潔に表せ。
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密度 は単位体積あたりの質量であるため, のときの密度は であるから, 圧力の釣り合い より,高さ は また, のとき より である。これを代入して,
初期のセルシウス温度の定義では,氷点()での測温物性の値を ,沸点()での値を としたとき,任意の温度での測温物性 が示す経験温度 は
で与えられる。測温物性 として水銀柱の高さ を採用したとき,得られる経験温度 が と一致することを示せ。
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測温物性 に を代入する。 氷点()での値 は 沸点()での値 は これらを経験温度の定義式に代入すると,
よって,計算された経験温度 は真の温度パラメータ に完全に一致する。
証明略(上記解答の通り)
ある日の室温が のとき,気圧計のガラス管の目盛りから読み取った水銀柱の高さ(見かけの高さ)が であったとする。しかし,ガラス管自体も温度変化により線膨張しており,温度 において実際の水銀柱の物理的な高さ は必ずしも読み取り値 と一致しない。 のときの高さ を次のように表すとき, をガラスの線膨張率 ,水銀の体膨張率 を用いて表せ。なお および であるとし,微小量 に対しては が成り立ち, 以上の高次項は無視できるとしてよい。
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真の大気圧 は,室温 における力学的な釣り合いから,
これを と等置すると,
両辺を で割ると,正確な の式が得られる。
次に近似を行う。 より と近似できるため,
ここで, より の項は極めて小さく無視できるため,
正確な式:
近似式:
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普段何気なく目にする「」という単位は,単なる数字の羅列ではなく「水銀という具体的な物質が,地球の重力に逆らってどれだけ持ち上がるか」という,極めて生々しい力学的な釣り合いの産物です。 また,水銀柱の高さが圧力だけでなく温度にも依存するという事実は,物理学において非常に重要な教訓を与えてくれます。私たちは「気圧」を測っているつもりでも,実は「気圧と温度の合成結果」を見てしまっているのです。そのため,純粋な圧力を知るためには「温度の影響を取り除く(補正する)」必要があり,純粋な温度を知るためには「圧力を一定に保つ」必要があります。 このように,1つの現象(水銀柱の上下)の裏に複数の要因(力学的な圧力と熱力学的な膨張)が隠れていることを見抜き,それを数式によって分離していくプロセスこそが,物理学の本質の1つと言えます。
問題 A3透熱壁と熱力学第0法則
図のように,水平に置かれた断面積 のシリンダー内に気体が封入されており,滑らかに動く質量の無視できるピストンで閉じ込められている。シリンダーの底面(左端)は透熱壁でできており,それ以外の面とピストンにおいてはいずれの状態変数も変化しないものとする。
ピストンはばね定数 のばねで右側の固定壁と結ばれている。気体の体積が ,気体部分の長さが のとき,ばねは自然長であるとする。気体が膨張してピストンが右に距離 だけ移動したとき,ばねは だけ縮み,ピストンを左向きに押し戻す。また,外部の圧力は常に に保たれている。
ピストンが位置 で静止しているとき,気体の圧力 を を用いて表せ。 また,気体の状態変数である圧力 と体積 の積 を を用いた で表せ。
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ピストンにはたらく水平方向の力のつり合いを考える。 右向きに押す力は気体の圧力による力 ,左向きに押す力は外圧による力 とばねの復元力 である。 したがって力のつり合いの式は, 両辺を で割ると,圧力 は となる。 また,気体の体積は であるから, を計算すると,
シリンダーの透熱壁を巨大な水槽に接触させ,十分な時間が経過して熱平衡に達したとする。このとき,温度が定義される前の経験的な状態方程式として ( は水槽の状態にのみ依存する正の定数)が成り立つことがわかっている。このとき,ばねの変位 を を用いて表せ。
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問1の結果より,熱平衡状態においては であるから,以下の2次方程式が成り立つ。 解の公式より, は 根号の中身を展開して整理する。
より,根号の中は常に正である。 物理的な条件 (体積 )を満たす解を選ぶ。負の符号を選んだ場合, よりも小さくなる可能性があるため,正の符号を検証する。 ここで であるから,分子は必ず正となる。ゆえに を満たすのは正の符号をとった解である。
方程式:
ばね定数 が極めて大きい場合を考える。 微小量 に対する近似式
を用いて, の近似式において の 次の項までを を用いて表せ。
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根号の中身 について, が十分に大きいとして でくくりだす。 として近似式を適用する。 の項には の項である が含まれる。
ここで が打ち消し合い,次のように整理される。 これを の分子に代入する。 これを で割ると, のオーダーでの近似式が得られる。
(考察): のとき, となり体積は変化しない()。したがってピストンは外部へ力学的な仕事を行わない()。しかし,圧力は へと変化する。仕事をしていないのに状態が変化するということは,透熱壁を介して仕事以外のエネルギー(熱)が移動したことの決定的な証拠である。
(考察は解答プロセスを参照)
現実の観測においてある二つの系が熱平衡に達したと判定するには,状態変数の変化が十分に収束するまでの時間を考慮する必要がある。ある透熱壁を介した2つの系の間の温度差(またはそれに対応する状態変数の差)は,経験的に次の式に従って減少することが知られている。
ここで は時刻 における2系間の指標の差, は接触開始時()の差, は透熱壁の性質で決まる緩和定数(単位は )である。
系 (温度計)を系 (熱浴)に浸し,時刻 における系 の指標 (水銀柱の高さ)が, のときの水銀柱の高さ を用いて次の条件を満たすとき,系 と実質的に一致したとみなす。
系 と系 の間の緩和定数を とするとき,この判定に最低限必要な時間 を を用いて表せ。ただし必要であれば を用いてよい。
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(1) 指数緩和の式において, を満たす を求める。 両辺の自然対数をとると, を代入すると,
系 (シリンダー内の気体)と系 についても,同様の緩和定数 が定義できるとする。いま,系 と十分に長い時間接触させて熱平衡に達した系 を,系 に接触させたところ,接触させた瞬間に系 の指標 に変化が見られず,系 のピストンも動かなかった。なお,系 と系 は直接接触していない。このとき,系 および系 の間の関係はどのようになっているか,簡潔に述べよ。
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(2) 「接触させた瞬間に変化が見られない」ということは,系 と系 が接触前からすでに熱平衡状態にあったことを意味する。 熱力学第0法則によれば,「AとBが熱平衡にあり,かつBとCが熱平衡にあるならば,AとCもまた熱平衡にある」。 したがって,系 と系 を直接接触させても状態変数は変化せず,両者はすでに熱平衡状態にあると結論付けられる。
(2) 系 と系 は,直接接触させるまでもなく,すでに互いに熱平衡の状態にある。
(2)のような熱平衡の確認を行わず,温度 の系 に,初期温度差のある系 を直接接触させて放置する場合を考える。系 の状態変数が,系 との初期の差の 倍( は正の整数)まで減少するのに必要な時間 を, と を用いて表せ。
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(3) より,
緩和定数 は,透熱壁の面積 と壁の厚さ を用いて次のように表されることがわかっている。
系 と系 を直接接触させる壁の面積が,温度計(系 )が他の系と接する面積の 倍であり,壁の厚さが 10倍であるとき,系 が系 と熱平衡に達するのに要する時間 は,温度計が系 と熱平衡に達するのに要する時間 の何倍になるか。なお精度(減少率)は同一であるとする。
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緩和定数の定義式 より,系 と系 の間の緩和定数 と,系 と系 の間の の比を求める。 与えられた条件 , を代入すると, すなわち,系 の方が 10倍速く変化が収束する性質を持つ()。 時間 は に反比例するため(問1, 3参照),必要な時間の比は よって,系 は温度計の 倍(0.1倍)の時間で平衡に達する。
(4) 倍
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熱力学は「なぜ温度が変わるのか」というミクロなメカニズム(分子の運動)を知らなくても構築できるように設計された,極めて堅牢な論理体系です。 本問題で扱ったように,「力学的な外力や仕事のつり合い()」だけでは,透熱壁を介した変化を説明できません。ピストンが動いたり,圧力が変化したりするというマクロな現象のズレこそが,目に見えないエネルギーの抜け道(熱)が存在することの確固たる証明なのです。 また,熱力学第0法則は一見「当たり前」に見えますが,これが成り立たなければ「温度計(系 )」を使って離れた2つの系(系 と系 )が同じ状態にあるかを判定することができません。第0法則こそが,世界中の異なる物質に対して「温度」という共通の客観的な指標を与えるための,もっとも重要な土台なのです。
問題 B1推移律の崩壊と経験温度の限界
次の各問いに答えよ。
断面積 のシリンダー内に,質量が無視できるピストンで隔てられた,気体の圧力がそれぞれ , で一定であるような系 ,系 があるとする。ピストンとシリンダーの壁との間には最大静止摩擦力 がはたらくとき,ピストンが動かずに静止するための条件を, を用いて表せ。
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ピストンが受ける水平方向の力のつり合いを考える。 系 の気体が右向きに押す力は ,系 の気体が左向きに押す力は である。 ピストンにはたらく静止摩擦力を (右向きを正)とすると,力のつり合いの式は ピストンが滑り出さずに静止を保つための条件は,静止摩擦力 の大きさが最大静止摩擦力 以下であることである。 これを代入して, 両辺を で割ると,
問1で用いたシリンダーとピストンを用いて,以下の独立した2つの観測を行った。
観測1 系 と系 を隔てたピストンは静止していた。
観測2 系 と系 を隔てたピストンは静止していた。
このとき,系 の圧力 と系 の圧力 の差の絶対値 の最大値 を を用いて表せ。また,系 と系 をこのピストンで直接隔てた場合,熱平衡となるか。
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系 と系 が力学的平衡にあることから,問1より 同様に,系 と系 が力学的平衡にあることから, が最大となるのは, がとり得る最大値であり, がとり得る最小値である場合(またはその逆)である。 の最大値は , の最小値は であるから,その差の絶対値の最大値は したがって,数学的に保証されるのは という条件のみである。
(説明):系 と系 をピストンで直接隔てたとき,ピストンが静止するための条件は である。しかし,上記の観測から保証される圧力差は最大で まで許容される。もし実際の圧力差が の範囲にあった場合,ピストンにかかる合力が最大静止摩擦力 を超えてしまうため,ピストンは滑り出し,力学的平衡は保たれない。よって力学的な推移律は成立しない。
(説明は解答プロセスを参照)
ある つの系の間に 以上の温度差がないと,系のいずれの状態変数も変化しないものとする。いま,この性質をもつ温度計 により,系 ,系 ,系 について次の観測結果を得た。
観測3 系 と系 を十分長い間接触させたとき,いずれの状態変数も変化しなくなった。
観測4 系 と系 を十分長い間接触させたとき,いずれの状態変数も変化しなくなった。
このとき,系 と系 の温度差の最大値を求めよ。
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力学モデルにおける圧力差の許容幅(不感帯) が,熱モデルにおける温度差の閾値 に対応する。 系 と系 の温度差が 以下であれば熱が流れず「熱平衡」と判定され,系 と系 の温度差も 以下であれば「熱平衡」と判定される。 問2の類推から,このとき系 と系 の真の温度差は,最大でそれぞれの閾値の和,すなわち となる。 最大で もの温度差があるにもかかわらず,共通の温度計Bを用いた間接的な測定では「推移律が成り立つ(両者は同じ温度だ)」と見誤る危険性が生じる。
(不可欠な性質):熱力学第0法則による推移律が厳密に成立し,矛盾のない温度を定義するためには,透熱壁は「いかなる微小な温度差()であっても,閾値なしに必ず熱エネルギーを移動させる性質」を持っていなければならない。
最大で となる。 (不可欠な性質:いかなる微小な温度差であっても,閾値を持たず必ずエネルギーを移動させる性質。)
温度計は,ガラス容器の容積膨張と封入された液体の体積膨張の差を見かけの体積変化として利用し,目盛りを振っている。
温度計としてガラス容器を使用できない条件を,「体膨張率」という言葉を用いて説明せよ。
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(1) 温度 における液体の体積は ,ガラス容器の容積は である。見かけの体積変化量は となる。もし であれば となり,温度が変化しても液面(目盛り)が全く動かないため,温度を読み取ることができず機能しなくなる。
(2) 異方性ガラス容器の各辺の長さは ,, となる。温度 における容積 は,
1次の項が完全に打ち消し合うため,1次近似の範囲での体膨張率 は となる。
(3) 通常の等方性ガラス()を用いると,容器自体も膨張するため,見かけの体積変化量は液体の真の膨張よりも小さく見積もられてしまう()。 しかし,この異方性ガラス容器を用いた場合, であるため,見かけの体積変化量は となり,容器の膨張による相殺(マイナス効果)がなくなる。 結果として,同じ温度変化に対して見かけの体積変化の割合が大きくなり,温度計としての「感度は高くなる」。
(1) となり,温度変化に対する目盛りの変動がなくなるため。(詳細は解答プロセスを参照) (2) (3) 感度は高くなる。(容器自身の膨張による相殺効果がなくなるため)
あるガラス容器 の 方向の各辺の線膨張率 , が定数 を用いてそれぞれ
であるとする。このとき,このガラス容器 の体膨張率 を求めよ。
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(1) 温度 における液体の体積は ,ガラス容器の容積は である。見かけの体積変化量は となる。もし であれば となり,温度が変化しても液面(目盛り)が全く動かないため,温度を読み取ることができず機能しなくなる。
(2) 異方性ガラス容器の各辺の長さは ,, となる。温度 における容積 は,
1次の項が完全に打ち消し合うため,1次近似の範囲での体膨張率 は となる。
(3) 通常の等方性ガラス()を用いると,容器自体も膨張するため,見かけの体積変化量は液体の真の膨張よりも小さく見積もられてしまう()。 しかし,この異方性ガラス容器を用いた場合, であるため,見かけの体積変化量は となり,容器の膨張による相殺(マイナス効果)がなくなる。 結果として,同じ温度変化に対して見かけの体積変化の割合が大きくなり,温度計としての「感度は高くなる」。
(1) となり,温度変化に対する目盛りの変動がなくなるため。(詳細は解答プロセスを参照) (2) (3) 感度は高くなる。(容器自身の膨張による相殺効果がなくなるため)
ガラス容器 を温度計の容器に用いる場合,体膨張率 の一般的な感温液において,等方性のガラス容器 (体膨張率 )と比較して,温度変化に対する見かけの体積変化の大きさはどうなるか,理由とともに述べよ。
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(1) 温度 における液体の体積は ,ガラス容器の容積は である。見かけの体積変化量は となる。もし であれば となり,温度が変化しても液面(目盛り)が全く動かないため,温度を読み取ることができず機能しなくなる。
(2) 異方性ガラス容器の各辺の長さは ,, となる。温度 における容積 は,
1次の項が完全に打ち消し合うため,1次近似の範囲での体膨張率 は となる。
(3) 通常の等方性ガラス()を用いると,容器自体も膨張するため,見かけの体積変化量は液体の真の膨張よりも小さく見積もられてしまう()。 しかし,この異方性ガラス容器を用いた場合, であるため,見かけの体積変化量は となり,容器の膨張による相殺(マイナス効果)がなくなる。 結果として,同じ温度変化に対して見かけの体積変化の割合が大きくなり,温度計としての「感度は高くなる」。
(1) となり,温度変化に対する目盛りの変動がなくなるため。(詳細は解答プロセスを参照) (2) (3) 感度は高くなる。(容器自身の膨張による相殺効果がなくなるため)
実際に等方性のガラス容器(体膨張率 )を用いて温度計を作成する。液溜めは,半径 の半球と,底面の半径 ,高さ の円錐が底面で結合された形状をしており,円錐の頂点から内径 の円柱状の細管が上方に伸びている。 において,感温液(体膨張率 )は液溜めをちょうど満たしており,細管の根本に液面がある。温度が になったとき,細管を上昇した液面の高さ を, を用いて表せ。なお,ガラスの線膨張率 は と近似できるものとし,細管の断面積の膨張については 以上の微小な項を無視する近似を用いよ。
解答・解説を表示
における液溜めの初期容積 は,半径 の半球と,底面の半径 ・高さ の円錐の体積の和である。
温度が になったとき,感温液の真の体積 と,液溜めの真の容積 はそれぞれ以下のようになる。
液溜めから細管に押し出される(見かけ上の)液体の体積 は,これらの差であるから,
一方,細管の内径も温度 によって に線膨張している。 温度 における細管の断面積 は, の近似と を用いて,
液面の高さ は,押し出された体積 をその温度での断面積 で割ったものであるから, を代入して整理すると,
(理由の指摘): 得られた の式は,分子に の1次式を持つだけでなく,分母にも を含む項()が存在するため,数学的には分数関数(有理関数)となる。 このため は の完全な1次関数(比例)にはならず,グラフは直線ではなくわずかに曲がった曲線(上に凸)となる。 したがって,氷点と沸点の間の長さを単に100等分して目盛りを振る(線形性を仮定する)「経験温度」の手法は,細管自体の膨張によって厳密には目盛りの間隔に歪みが生じるため不適切である。
(理由は解答プロセスを参照)
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私たちが日常的に「温度計」と呼んでいる計器は,実は「熱力学第0法則の推移律」「透熱壁の閾値ゼロ性」「物質の等方性」という,非常に厳格で奇跡的な物理的条件の上に成り立っています。 もし壁に「摩擦」のようなエネルギー移動の不感帯があれば,温度という共通指標は定義できず,世界は局所的な平衡状態の寄せ集めにすぎなくなります。また,もし容器のガラスが液体と同じように膨張してしまえば,温度計はただの「温かいガラスの棒」になり下がります。 「仮定が成立しない場合」を力学や数学のモデルでシミュレーションすることは,普段当たり前だと思っている物理法則や測定器具の背後にある「精密な条件設定」のありがたみを浮き彫りにする,最高のアプローチの一つです。
問題 B2力学と熱
次の各問いに答えよ。
質量 のブロックが,水平で粗い床の上を初速度 で滑り出し,動摩擦力を受けて距離 だけ移動したのちに完全に静止した。制止する前後でブロックの力学的エネルギーの変化量 はいくらか, を用いて表せ。
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初状態の力学的エネルギーは運動エネルギーのみで であり,終状態では静止しているため である。 したがって,力学的エネルギーの変化量 は, (説明):力学の枠組みでは,失われた運動エネルギー がどこへ消えたのか,あるいはブロックや床の内部状態にどのような変化をもたらしたのかを一切記述することができず,エネルギーが宇宙から消滅したかのように扱わざるを得ない点。
(説明不足の点:失われた力学的エネルギーの行方や,それが物質の内部状態に与えた変化を一切記述・説明できないこと。)
次に,床の内部に水銀温度計を埋め込み,床の材質と水銀とを透熱壁で隔てたところ,ブロックが静止した後十分に長い時間が経過したとき,水銀温度計の体積がわずかに膨張して静止した。このとき,ブロック,床,水銀に共通する変化が起きたといえる理由を簡潔に述べよ。なお系全体(ブロック,床,温度計)はどの系と接触してもいかなる状態変数も変わらないような特殊な壁で隔てられているものとする。
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もし境界が断熱壁であれば,力学的エネルギーが消失したことによる床の内部変化(エネルギーの移動)が温度計に伝わらないため,水銀温度計の体積は一切変化しない。 (論理構造の説明):透熱壁を用いることで,力学的な仕事を一切していないにもかかわらず水銀の体積が変化し,やがてその変化が止まる。この状態を「熱平衡」という。水銀温度計(系 )が床(系 )と熱平衡に達したことを確認できる。さらに,床の上にあるブロック(系 )も床(系 )と熱平衡にあるとすれば,「熱力学第0法則」の推移律により,直接接触していないブロック(系 )と水銀温度計(系 )も熱平衡にあることが保証される。この第0法則の論理的土台があるからこそ,私たちは温度計の体積膨張という一つのマクロな指標を通して,系全体に「温度」という共通の客観的な内部状態の変化が起きたのだと断言できるのである。
断熱壁の場合:水銀温度計の体積は一切変化しない。 (論理構造:解答プロセスを参照。透熱壁によるエネルギー移動の終着点である「熱平衡」と,系全体の共通状態を保証する「熱力学第0法則」が不可欠である旨を記述する。)
問2の観測により,消失した力学的エネルギーは経験温度を上昇させるものとして系内部に保存されたと仮定する。水銀の での体積を ,体膨張率を とすると,経験温度(セルシウス温度) における水銀の体積は と近似できる。観測によって水銀の体積が だけ増加したとき,経験温度の上昇幅 を を用いて表せ。さらに,消失した力学的エネルギーの大きさ が,この経験温度の上昇幅 に正比例すると仮定する(。ここで は系全体の温度を 度上げるのに必要なエネルギーを表す定数)。この比例定数 を ,,,, を用いて表せ。
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体積の式 より,温度が だけ上昇したときの体積の増加量 は, これを について解くと, 次に,比例関係 に, と上で求めた を代入する。 これを比例定数 について解くと,
ある水槽の中に,水と水銀温度計が入っており,熱平衡に達している。水槽の中には羽根車があり,滑車を通じて外部の つの重り と繋がっている。重りが重力に引かれて落下することで羽根車が回り,水と摩擦を起こして系全体を加熱する。なお,重りは落下直後に床に衝突して完全に静止し,その運動エネルギーも全て水槽内の加熱に使われたものとする。また,水槽はどの系と接触してもいかなる状態変数も変わらないような特殊な壁で隔てられているものとする。
重りの質量を ,重りの落下距離を ,重力加速度の大きさを ,系全体(水,羽根車,容器,温度計)の経験温度を 上昇させるのに必要なエネルギーを ,水銀温度計の初期体積:,水銀の体膨張率を とするとき,水銀温度計の体積膨張分 を有効数字 桁で計算せよ。
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2つの重り(合計質量 )が距離 だけ落下したときに失われる力学的エネルギー(位置エネルギーの減少量) は, このエネルギーがすべて系の温度上昇に使われるため,温度上昇幅 は, 水銀の体積増加量 は,問3の導出式 を用いて計算する。
計算に使用した数値はすべて有効数字3桁であるため,結果も有効数字3桁で示す。
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古典力学の視点から見れば,摩擦で止まったブロックや,落下して静止した重りは「運動エネルギーが失われた」というただ一点において,敗北を認めるしかありませんでした。エネルギー保存則という物理学の美しい大原則が,現実世界では成り立たないように見えたのです。 しかし,人類は「透熱壁」を通してエネルギーが移動する性質と,「熱力学第0法則」が保証する熱平衡という観測事実を組み合わせることで,「経験温度」という新たな物差しを作り出しました。これにより,力学的には「消えた」ように見えるエネルギーが,実はミクロな世界に隠れ,マクロな「体積膨張」として測定可能であることを証明したのです。 熱力学は,力学が見落としたエネルギーの「行方不明事件」を解決し,エネルギー保存則をより大きな枠組み(熱力学第1法則)へと拡張するために,どうしても誕生しなければならない必然の学問でした。
問題 C1動的平衡と温度の再定義
一般に精密機器において部品同士を接触させるとき,一部の部品を動かして周りの部品の圧力や体積,張力といった状態変数が変化すると,精密機器全体で致命的な誤作動を引き起こす可能性がある。そのため,複数の系を常に安定的に保つような高度な制御が要求される。
ある新素材のの弾性素材でできた複数のエネルギーを物理的な動きに変換する駆動装置(アクチュエータシステム)を用意した。各システムの状態は,ある素子の長さ ()と張力 ()の つの力学的な変数のみによって決まるものとする。
ここで,システム とシステム を透熱壁で接触させ,互いに熱平衡を維持したまま,それぞれの状態を同時に微小変化させる実験を行った。その結果,各瞬間の変化量 と の間には,常に次の つの関係式が同時に成立することが判明した。
これを用いて,次の問いに答えよ。なお虚数単位を とする。
式①で示される条件内のみでシステム とシステム が満たすべき保存量 を求めよ。
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と は次元の異なる量であるため,互いに干渉しない独立した要素として一つの変数にまとめることを考え,物理量のシステム とシステム の状態をそれぞれベクトル表記すると
次に内積 を考えると
各変数がある媒介変数 の関数であるとすると,積の微分法より
右辺の各項に積の微分法を適用して
式①より右辺は で一定だから,両辺を積分すれば積分定数を とすると
定数 はシステム とシステム が式①で示された条件内のみで満たすべき保存量に他ならないから
システム とシステム が満たすべき保存量 を求めよ。
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ベクトル量 , を次のように定める。
問1と同様に内積 を考えると
各変数がある媒介変数 の関数であるとすると,積の微分法より
右辺の各項に積の微分法を適用して
式②より右辺は で一定だから,両辺を積分すれば積分定数を とすると
定数 はシステム とシステム が式②で示された条件内で満たすべき保存量だからこれを とおくと
ここで複素数平面において,実軸に素子の長さ ,虚軸に張力 をとり,素子の状態を複素数平面上のある点として表わす。システム を表す複素数 と,システム の状態をあらわす複素数 と共役な複素数 の積は
ここで,実部 は問1で求めた保存量 であり,虚部の括弧内 は保存量 であるから
はともに定数であるから,左辺も定数であり,この式はシステム とシステム が満たすべき条件である。よって,求める保存量 は
または
次に,同じ新素材でできた つのシステム , , を用いて調整試験を行った。システム と を接触させて熱平衡に達したとき,状態は , であった。一方,システム と を接触させて熱平衡に達したとき,状態は , であった。システム と に対して成り立つ固有の関係式を次のように表す。
このとき, を , を を用いてそれぞれ表し,定数 を求めよ。
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問2の結果より,2つのシステム間の状態には複素数を用いた保存則 (一定)が成り立つ。各システムの状態を複素数 で表すと,与えられた数値データより,各システムの状態に対応する複素数は以下の通りになる。
システム と に対して成り立つ固有の関係式を導くため,保存量 を計算すると
したがって,関係式は次のように表される。
これを問題の形式 と比較すると
となる。
システム を実際の精密機器に組み込む際,システム 単独で稼働させながらも,常にシステム や と接し,かつ や のいかなる状態変数も変化させないようにする必要がある。このときシステム が満たすべき条件を と を用いて示せ。
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システム が稼働している間,外部のシステム( や )の状態変数に影響を与えないということは,システム の状態変化がシステム自身の保存量を不変に保つことを意味する。 問2で導いた保存則 において,反射律,すなわち の場合を考えると,
が成り立つ必要がある。ここで,システム の初期状態 を用いて,この定数値 を求めると,
したがって,システム が満たすべき条件は であり,これを を用いて表すと次のようになる。
個のシステム がシステム とのみそれぞれ接触している状態 と, 個のシステム が順に接続している状態 のいずれにおいても,隣接するシステム間で問2の保存則が成り立つものとする。それぞれの接続方法でどのような挙動を実現できるか,それぞれ説明せよ。
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(考察例)
複素数 において、その偏角 は、次のように表せ,すなわちシステムにおける長さ と張力 の比率を表す。
隣接するシステム間の保存則
は
という複素数平面上の回転と相似拡大の演算に帰着され、接続形態による「位相の足し合わせ」の差異がシステムの機能的特徴を決定する。
<接続方法 > 接続方法 (並列接続)においては、各システム が共通の基準 に対して を定数として次のような関係で結ばれる。
このとき全体の位相関係は
となり、基準に対する個別の位相差が独立して固定される。ここでは位相の累積(足し合わせ)が発生しないため、基準の変化に対して全素子が一定の歩調で応答する「集中制御による完全同期」が実現され、同一素材の部品を並列して均一に駆動させるような安定性の高いシステム構築が可能となる。
<接続方法 >
一方で、状態 の直列接続においては、各接点の変換係数を とすると、末端の状態は
という合成変換の形で表され、その全体の偏角は
と各段の位相差の総和として累積する。この累積により、入力された状態を段階的に回転・加工していく連鎖的な状態変換が実現でき、例えば素材の異なるシステムを順に繋ぐことで、位相を意図的に遅延させたり出力を増幅させたりするような、多段階の変換プロセスを伴う工学的な設計が可能となる。
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一見すると4変数が複雑に絡み合い,解析不可能に思える力学系であっても,「熱平衡を保つ」という現象の背後には極めて美しい幾何学的・代数的な構造が隠されています。 本問題は,ベクトルによる内積の直交性,複素数によるクロス項の統合という強力な数理手法を用いて防壁を突破し,最後に「熱力学第0法則」という物理の基本法則によって論理的な「温度指標(楕円)」を自ら創造する,という複合的で高度な思考を要求します。 「温度とは何か」——それは単なる計器の目盛りではなく,異なる系同士がエネルギーをやり取りした果てに到達する『状態の同値類(不変な関係性)』そのものです。数学という言語を使うことで,私たちは宇宙のいかなる極限環境においても,自らの手で温度を再定義し,自然界の法則を記述することができるのです。