2-1-1. 熱力学における仕事

問題 A1
ゴム気球

 半径 rr の球形のゴム気球がある。この気球を膨張させる際,ゴムの膜を伸ばすために必要な力学的な仕事 ΔW\Delta W は,膜の張力(単位長さあたりの力)を γ\gamma とすると,表面積 SS の変化量 ΔS\Delta S を用いて次のように定義されるものとする。

ΔW=γΔS\Delta W = \gamma \Delta S

 今,ある特殊な素材でできた気球において,張力 γ\gamma が半径 rr に比例し,γ(r)=kr\gamma(r) = krkk は正の定数)であることがわかっている。この気球の中に気体を封入し,ゆっくりと膨張させた。次の問いに答えよ。なお,半径の微小な変化 Δr\Delta r に対し,(Δr)2(\Delta r)^2 以上の項は無視できるほど小さいものとして近似せよ。

1

気球の半径が rr から r+Δrr+\Delta r まで変化したとき,表面積の変化量 ΔS\Delta Sr,Δrr, \Delta r を用いて表せ。また,ゴムの膜を伸ばすのに必要な力学的仕事 ΔW\Delta Wk,r,Δrk, r, \Delta r を用いて表せ。

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半径 rr のときの球の表面積 SSS=4πr2S = 4\pi r^2 である。 半径が rr から r+Δrr + \Delta r まで変化したときの表面積の変化量 ΔS\Delta S

ΔS=4π(r+Δr)24πr2=4π(r2+2rΔr+(Δr)2)4πr2=8πrΔr+4π(Δr)2\begin{aligned} \Delta S &= 4\pi (r + \Delta r)^2 - 4\pi r^2 \\ &= 4\pi (r^2 + 2r\Delta r + (\Delta r)^2) - 4\pi r^2 \\ &= 8\pi r \Delta r + 4\pi (\Delta r)^2 \end{aligned}

ここで,(Δr)2(\Delta r)^2 以上の項を無視できるとする近似を用いると

ΔS8πrΔr\Delta S \approx 8\pi r \Delta r

これより,ゴムの膜を伸ばすのに必要な力学的仕事 ΔW\Delta WΔW=γΔS=(kr)8πrΔr=8πkr2Δr\Delta W = \gamma \Delta S = (kr) \cdot 8\pi r \Delta r = 8\pi k r^2 \Delta r である。

(答) ΔS=8πrΔr\Delta S = 8\pi r \Delta rΔW=8πkr2Δr\Delta W = 8\pi k r^2 \Delta r

2

気球内部の気体の圧力を PP とする。半径が rr から r+Δrr+\Delta r まで変化したときの体積の変化量 ΔV\Delta Vr,Δrr, \Delta r を用いて表せ。また,気体がゴムの膜に対してした仕事 ΔW\Delta WP,r,ΔrP, r, \Delta r を用いて表せ。

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半径 rr のときの球の体積 VVV=43πr3V = \dfrac{4}{3}\pi r^3 である。 半径が rr から r+Δrr + \Delta r まで変化したときの体積の変化量 ΔV\Delta V

ΔV=43π(r+Δr)343πr3=43π(r3+3r2Δr+3r(Δr)2+(Δr)3)43πr3=4πr2Δr+4πr(Δr)2+43π(Δr)3\begin{aligned} \Delta V &= \dfrac{4}{3}\pi (r + \Delta r)^3 - \dfrac{4}{3}\pi r^3 \\ &= \dfrac{4}{3}\pi (r^3 + 3r^2\Delta r + 3r(\Delta r)^2 + (\Delta r)^3) - \dfrac{4}{3}\pi r^3 \\ &= 4\pi r^2 \Delta r + 4\pi r(\Delta r)^2 + \dfrac{4}{3}\pi (\Delta r)^3 \end{aligned}

ここで,(Δr)2(\Delta r)^2 以上の項を無視できるとする近似を用いると

ΔV4πr2Δr\Delta V \approx 4\pi r^2 \Delta r

これより,気体がゴムの膜に対してした仕事 ΔW\Delta W

ΔW=PΔV=4πPr2Δr\Delta W = P \Delta V = 4\pi P r^2 \Delta r

(答) ΔV=4πr2Δr\Delta V = 4\pi r^2 \Delta rΔW=4πPr2Δr\Delta W = 4\pi P r^2 \Delta r

3

気球内部の圧力 PP を求めよ。

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問1で求めた力学的な定義による仕事と,問2で求めた熱力学的な定義による仕事が一致することから

8πkr2Δr=4πPr2Δr8\pi k r^2 \Delta r = 4\pi P r^2 \Delta r

が成立する。両辺を 4πr2Δr4\pi r^2 \Delta r で割ると

2k=P2k = P

よって,気球内部の圧力 PP は,半径 rr によらず一定で P=2kP = 2k である。

(答) P=2kP = 2k

4

半径が RR から 2R2R まで膨張するときに,気体が外部(ゴム膜)に対してした全仕事 WWk,Rk, R を用いて求めよ。

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ゆっくり気体が膨張していることから気球内外で圧力 P=2kP=2k が一定である。したがって半径が RR から 2R2R まで膨張するときに気体がした全仕事 WW は,一定圧力下における仕事の式 W=PΔVW=P\Delta V で求められるから

W=2k{43π(2R)343πR3}=83πk{(2R)3R3}=83πk(8R3R3)=563πkR3\begin{aligned} W &= 2k \left\{\dfrac{4}{3}\pi(2R)^3 - \dfrac{4}{3}\pi R^3 \right\} \\ &= \dfrac{8}{3}\pi k \left\{ (2R)^3 - R^3 \right\} \\ &= \dfrac{8}{3}\pi k (8R^3 - R^3) \\ &= \dfrac{56}{3}\pi k R^3 \end{aligned}

(答) W=563πkR3W = \dfrac{56}{3}\pi k R^3

補足を表示

 本来,球体についてはその内部の圧力,表面張力,半径の関係はラプラスの法則(Laplace's Law)で表され,

P=2TrP=\dfrac{2T}{r}

に従い,圧力は一定とはならない。特に,ゴム球はゴムの分子鎖が絡み合っており,これを引き剥がして整列させるのに大きなエネルギーが必要であることから,ラプラスの法則からもよくわかるように膨らみ始めがより大きな仕事を必要とする。しばらくすると分子が整列して張力の増加が緩やかとなり,むしろ半径が増加するにつれて圧力が下がる。一方で限界まで膨らんでくるとゴムの分子鎖が完全に伸び切り,それ以上引き伸ばすには結合長そのものを伸ばす力が要るため,圧力は再び急上昇する。この点,問題の条件どころか,ラプラスの法則にも従わない。

 しかし,問題で言及した通り「特殊な素材」であればいくらか一定と近似できる現象も存在する。そのうちの一つに人間の肺の中にある肺胞がある。

 前提として,肺胞の壁(上皮細胞)は乾燥すると細胞が死んでしまうため,常に湿っていなければならない。そのため肺胞の内面は水膜で覆われているが,半径が小さい(しぼんでいる)ときほど,ラプラスの法則に従って強烈な縮まろうとする力(表面張力)が発生する(水は水素結合という非常に強力な力で引き付けあっているため非常に表面張力が強い)。

 この特徴の最大にして最悪の欠点は,ラプラスの法則からも察せられる通り,肺を膨らませるために必要な圧力が,呼吸筋(横隔膜など)の出せる限界を軽々と超え,理論上最大の圧力が必要になる点である。これを防ぐため,水膜表面にはサーファクタントと呼ばれるものが存在し,肺胞が小さくなると分子の密度が大きくなって水分子同士が引き合うのを防いでいる。一方で肺胞が膨らんで表面積が大きくなると,そこに存在していたサーファクタント分子が引き延ばされてまばらな状態になり,水本来の表面張力が発揮される(息を吐くときに余計に筋肉を使わなくて済むなどの利点がある)。

 このような現象下では,肺胞内の圧力(経肺圧)は,ラプラスの法則にしたがうよりも,むしろ圧力勾配の向きが反転し,概算上では無視できるほどの変化内(医学においては無視はできないが)で圧力が維持される。その幅はサーファクタントがない場合に 25253030 cmH2O\mathrm{cmH₂O}(水柱センチメートル)以上の圧力が必要になるところ,約 551010 cmH2O\mathrm{cmH₂O} ですむほどである。呼気ではさらに狭い変動幅(約 33 cmH2O\mathrm{cmH₂O})であることが知られている。

問題 A2
深海探査バルーンの上昇と仕事

 海中を上昇する球形の探査用バルーンを考える。このバルーンには理想気体が封入されており,上昇中,バルーン内の気体の温度は一定に保たれている。このとき,気体の圧力 PP と体積 VV の間には CC を定数として常に次の関係式が成り立つことが知られている。

PV=CPV = C

 水深 zz における水圧 P(z)P(z)P(z)=P0+ρgzP(z) = P_0 + \rho g z とするとき,以下の問いに答えよ。ただし,P0P_0 は大気圧,ρ\rho は海水の密度,gg は重力加速度,海面(z=0z=0)でのバルーンの半径を R0R_0 とする。

1

バルーンの半径が rr から r+drr + dr へ微小変化したとき,気体が外部に対してした微小仕事 dWdWP(z),r,drP(z), r, dr を用いて表せ。また, dW=P(z)dVdW = P(z) dV が成りたつことを示せ。

2

水深 zz におけるバルーンの半径 r(z)r(z) を,R0,P0,ρ,g,zR_0, P_0, \rho, g, z を用いて表せ。

3

バルーンが水深 HH から海面(z=0z=0)までゆっくりと上昇する間に,気体が周囲の水に対してした全仕事 WWP0,ρ,g,R0,HP_0, \rho, g, R_0, H を用いて求めよ。

問題 B1
特殊な媒質の圧縮・膨張と力学的エネルギー

 運動する台車と,水平な床に固定されたピストンつき容器に関する以下の設問に答えよ。台車と床との摩擦,およびピストンの質量は無視できる。ピストンつき容器の外側は真空である。台車の速度は右向き(ピストンを押し込む向き)を正とする。

 容器内には特殊な媒質が封入されている。この媒質の圧力 PP は体積 VV のみに依存するが,熱力学的な気体とは異なり,圧縮される過程と膨張される過程で異なる特性を持つ。具体的には,体積が減少する圧縮過程においては P=αV2P = \alpha V^{-2}α\alpha は正の定数),体積が増加する膨張過程においては P=βV2P = \beta V^{-2}β\beta は正の定数であり,β<α\beta < \alpha)に従うものとする。

1

なめらかに動くピストンがストッパーの位置で静止しており,はじめ媒質の体積は V0V_0 である。このピストンに向かって質量 mm の台車を速度 v0v_0 で運動させる。この台車がピストンに接した時刻を t0t_0 とする。時刻 t0t_0 の後,台車はピストンを押し込み,媒質の体積が V1V_1 となったところで速度が 00 となった。この時刻を t1t_1 とする。その後,台車はピストンに押し返されて,媒質の体積が V0V_0 に戻った時刻 t2t_2 でピストンから離れた。

(1)

時刻 t0t_0 から t1t_1 の間に,台車が媒質からされた仕事 W1W_1α,V0,V1\alpha, V_0, V_1 を用いて表せ。

(2)

時刻 t1t_1 における体積 V1V_1 を,m,v0,α,V0m, v_0, \alpha, V_0 を用いて表せ。

(3)

時刻 t2t_2 で台車がピストンから離れるときの台車の速度 v2v_2 を,v0,α,βv_0, \alpha, \beta を用いて表せ。

(4)

時刻 t0t_0 から t2t_2 における,時刻 tt と台車の速度 vv との関係を表すグラフとして最も適切なものを説明した以下の文について,空欄 ( あ ) 〜 ( え ) に当てはまる語句の組み合わせを下の①〜④の中から選び,そのように判断した理由を台車の「運動方程式」と「圧力変化」に着目して簡潔に述べよ。

「時刻 t0t_0 から t1t_1 では,速度 vv は正の値から 00 に向かって減少する。このとき,加速度の大きさは次第に( あ )ため,グラフの形状は( い )となる。一方,時刻 t1t_1 から t2t_2 では,速度 vv00 から負の値に向かって減少する。このとき,加速度の大きさは次第に( う )ため,グラフの形状は( え )となる。」

① あ: 大きくなる, い: 上に凸の曲線, う: 小さくなる, え: 下に凸の曲線

② あ: 大きくなる, い: 下に凸の曲線, う: 大きくなる, え: 上に凸の曲線

③ あ: 小さくなる, い: 下に凸の曲線, う: 小さくなる, え: 下に凸の曲線

④ あ: 小さくなる, い: 上に凸の曲線, う: 大きくなる, え: 上に凸の曲線

2

次に,容器の中の媒質を別のものに入れ替え,はじめの体積を V0V_0,台車の初速度を v0v_0 として問1と同様の実験を行った。この新しい媒質は,体積の変化の向きによらず圧力は P=γV1P = \gamma V^{-1}γ\gamma は正の定数)に従う。台車がピストンを押し込み,体積が V3V_3 となった時刻 t3t_3 で台車の速度が 00 となった。この瞬間,特殊な操作により媒質の一部を取り出し,圧力を瞬間的に元の半分に低下させた。それ以降の膨張過程では P=γ2V1P = \dfrac{\gamma}{2} V^{-1} に従って体積が増加し,体積が V0V_0 に戻った時刻 t4t_4 で台車はピストンから離れた。

(1)

時刻 t0t_0 における台車の運動エネルギーを K0K_0 とする。V3V_3V0V_0 の比 V3V0\dfrac{V_3}{V_0} を,K0,γK_0, \gamma を用いて表せ。

(2)

時刻 t4t_4 でピストンから離れるときの台車の速さ v4v_4 と初速度の大きさ v0v_0 の比 e=v4v0e = \dfrac{v_4}{v_0} を求めよ。

問題 C1
テッポウエビとキャビテーション気泡の崩壊

 テッポウエビは,極めて高速でハサミを閉じることで水中に強力なジェット水流を生み出す。このとき局所的に水圧が急低下し,「キャビテーション気泡」と呼ばれる内部がほぼ真空の気泡が発生する。直後に周囲の水圧が回復すると,気泡は猛烈な勢いで収縮して崩壊し,その際に発生する衝撃波で獲物を気絶させる。

 広大な空間を満たす密度 ρ\rho の水(非圧縮性の流体とする)の中に,最大半径 R0R_0 に達した球形気泡がある。気泡内部には物質が存在せず,圧力は常に 00 であるとする。無限遠方における水圧は常に一定値 P0P_0 に保たれており,重力や水の粘性,表面張力は無視できるものとする。

 時刻 t=0t=0 で半径 R0R_0 だった気泡が周囲の水圧に押しつぶされて収縮し始め,ある時刻で半径が RR (R<R0R < R_0) になった。この瞬間の気泡壁(水と真空の境界)の収縮する速さを vv とする。

1

水は非圧縮性(密度が変化しない)であるため,気泡の中心を中心とする任意の半径 rr (rRr \ge R) の球面を単位時間あたりに通過して内側へ流れ込む水の体積は,rr の大きさに関係なく常に一定である。 この性質を用いて,気泡の中心から距離 rr にある水の速さ u(r)u(r) を,R,r,vR, r, v を用いて表せ。

2

気泡の半径が RR の瞬間において,気泡の周囲(r=Rr=R から r=r=\infty)に存在する水全体の運動エネルギーの総和 KKρ,R,v\rho, R, v を用いて表せ。

3

気泡壁の速さの 22v2v^2P0,ρ,R0,RP_0, \rho, R_0, R を用いて表せ。

4

気泡の半径 RR

R=12R0R = \frac{1}{2}R_0

を満たす瞬間の気泡壁の速さ vv を,P0P_0ρ\rho を用いて求めよ。

5

現実のキャビテーション気泡の内部にはわずかに水蒸気などの気体が含まれており,気泡が収縮するにつれて圧縮され,内圧 PinP_\mathrm{in} が上昇する。内圧は気泡の体積 VV の関数として Pin(V)P_\mathrm{in}(V) と表されるとする。 気泡が最大半径 R0R_0(体積 V0V_0)から収縮し,ある最小半径 RminR_\mathrm{min}(体積 VminV_\mathrm{min})に達した瞬間に収縮が止まり,水全体が静止した(気泡壁の速さが v=0v=0 になった)とする。 このとき力学的エネルギー保存則を表す関係式を,P0,V0,VminP_0, V_0, V_\mathrm{min},および Pin(V)P_\mathrm{in}(V) を用いて積分の形で示せ。