対審及び判決の公開
Publicity of Trials and Judgments
対審の公開
憲法82条2項の非公開決定における「合議の上」との調書記載の効力
合議の上,審理の公開を禁止したという場合でも,裁判官全員の意見が合致して非公開を決定したものと認め得る。
最大判 昭和23年6月23日
要旨裁判が,公開の法廷において,公正な裁判所によってなさるべきことは,所論のごとく憲法の明定するところである。ただ公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある場合には,裁判官の全員一致で,対審を公開しないで行うことができることは,憲法第82条第2項の定めているところである。そして,本件記録を調査すると,「裁判長は合議の上,爾後の審理は,風俗を害する虞あるにより,公開を禁止する旨を告げ非公開とした」との記載が,昭和22年9月30日の公判調書に明記されている。かくのごとく裁判所が非公開で審理をした場合には,「裁判官の全員一致で」公の秩序又は善良の風俗を害する虞があると決定した旨を明確な表現で調書に記載しておくことが大切である。そこで,本件調書に「合議の上」風俗を害する虞あるにより公開を禁止した旨を告げ非公開としたとの記載は厳格にいえば,稍不正確の嫌があるが,しかしなお,裁判所法にいわゆる評議を経て,裁判官全員の意見が合致して非公開を決定したものと認め得るのである。
判決の公開
判決宣告の公開と公判調書への記載義務の要否
裁判が公開されたことを調書に明記することを要しない。
最大判 昭和23年6月23日
要旨裁判の対審判決を公開すべきことは旧憲法も保障するところであって,旧刑事訴訟法第208条は「公ニ弁論ヲ為シタルコト」を公判始末書に記載しなければならぬことを規定して,裁判は特に公開が禁止されない限り必ず公開すべきものとしている。このことは,わが国においても既に長年間違なく実行されてきて,裁判の公開が常識となり,公開の禁止はごく稀な例外となっている。従って,公判の調書に公開禁止の記載がなければ公判の公開されたことはおのずから調書上明かであるので,現行刑事訴訟法第60条は旧規定を改正して,単に「公開ヲ禁シタルトキハ其ノ旨及理由」を公判調書に記載すべきことゝした。すなわち,裁判を公開した場合は当然のことゝして公開したことを調書に記載する必要のないものとし,たゞ公開を禁じた場合だけを公判調書に記載すべきことに改正したのである。裁判公開の保障は,裁判の公開されたことが公判調書上おのずから判明すれば十分であって,公開したことを特に調書に明記する必要はない。もし,不法に公開を禁じた場合には上告審において刑事訴訟法第435条によりその事実を取調べることができるからである。かえって,公開したことを調書の必要的記載事項とすると,裁判は実際には公開されたのに調書がその記載を欠いた場合に,刑事訴訟法第64条により公判調書以外の証明が許されないため,上告審においてはその手続による裁判を無用に破毀しなければならない不当の結果を生じる。以上の解釈は新憲法施行の後においても同じことである。新憲法は基本的人権保障の一つとして,公開裁判の原則を規定した裁判の対審及び判決を公開法廷で行うことは新憲法上重要な人権の保障であるこというまでもないが,審判を公開したことを特に公判調書に明記しなければならないことは,憲法のどの条規にも規定されていない。されば,新憲法の下においても,裁判の公開は公判調書上おのずからそのことが判明すれば十分であって,特に公開したことを調書に明記しなくとも憲法の違反とはならない。従って,従前の解釈は「日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の応急的措置に関する法律」第2条にも違反するところはない。本件において,原裁判所は,その審理が風俗を害する虞があるとして,公判の公開を禁じたことは,原審の公判調書によって明かなので,本件での公開の禁止は,事件の審理に限定された趣旨であると解釈しなければならない。従って,結審後の判決宣告期日の公判においては公開の禁止は解かれていたこと明かである。そして,判決宣告期日の公判調書には公開を禁じたことの記載がないのであるから,前述したとおり,原判決の宣告は公開法廷で行われたものと公判調書上認めることができる。されば,原判決には所論のような憲法及び刑事訴訟法の違反はなく,論旨は理由がない。