生命及び自由の保障と科刑の制約

Protection of Life and Liberty and Restrictions on Punishment

死刑制度

明治6年太政官布告第65号の存続と罪刑法定主義

判例

➀ 明治六年太政官布告第六五号絞罪器械図式は、現在法律と同一の効力を有するものとして有効に存続している。

➁ 将来,存続する布告の基本的事項に関する部分を改廃する場合には,法律をもってなすべきである。

明治6年太政官布告第65号明治六年太政官布告第六十五号(絞罪器械図式)
府県ヘ 絞罪器械別紙図式ノ通改正相成候間各地方ニ於テ右図式ニ従ヒ製造可致事 絞架全図 実物 六十分ノ一 本図死囚二人ヲ絞ス可キ装構ナリト雖モ其三人以上ノ処刑ニ用ルモ亦之ニ模倣シテ作リ渋墨ヲ以テ全ク塗ル可シ 凡絞刑ヲ行フニハ先ツ両手ヲ背ニ縛シ紙ニテ面ヲ掩ヒ引テ絞架ニ登セ踏板上ニ立シメ次ニ両足ヲ縛シ次ニ絞繩ヲ首領ニ施シ其咽喉ニ当ラシメ繩ヲ穿ツトコロノ鉄鐶ヲ頂後ニ及ホシ之ヲ緊縮ス次ニ機車ノ柄ヲ挽ケハ踏板忽チ開落シテ囚身 地ヲ離ル 凡一尺 空ニ懸ル凡二分時死相ヲ験シテ解下ス(凡絞刑云々以下ハ原文絞架図面ノ後ニアリ)
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最大判 昭和36年7月19日

要旨
裁判所:最高裁判所大法廷
判例:1961年(昭和36年)7月19日
事件番号:昭和32(あ)2247
出典:刑集 第15巻7号1106頁

 論旨は,死刑の執行方法について法律の定めがないに拘らず,その方法を特定することなく敢えて絞首刑たる死刑を宣告したことは,憲法31条,36条に違反すると主張する。

 しかし死刑の執行方法に関する事項を定めた所論明治6年太政官布告65号は,同布告の制定後今日に至るまで廃止されまたは失効したと認むべき法的根拠は何ら存在しない。そして同布告の定めた死刑の執行方法に関する事項のすべてが,旧憲法下また新憲法下において,法律をもつて規定することを要する所謂法律事項であるとはいえないとしても,同布告は,死刑の執行方法に関し重要な事項(例えば,「凡絞刑ヲ行フニハ……両手ヲ背ニ縛シ……面ヲ掩ヒ……絞架ニ登セ踏板上ニ立シメ……絞縄ヲ首領ニ施シ……踏板忽チ開落シテ囚身……空ニ懸ル」等)を定めており,このような事項は,死刑の執行方法の基本的事項であつて,死刑のような重大な刑の執行方法に関する基本的事項は,旧憲法下においても法律事項に該当すると解するを相当とし(旧憲法23条),その限度においては同布告は旧憲法下において既に法律として遵由の効力を有していたものと解するを相当とする。けだし,旧憲法前の法令は,その名称の如何を問わず,旧憲法下において法律をもつて定むべき事項を定めたものは,法律として遵由の効力を有していたからである。(旧憲法76条1項。この理は,同布告自体が旧憲法下において1回も改正される機会がなかったことによつても,何ら異なるところはない。)更に新憲法下においても,同布告に定められたような死刑の執行方法に関する基本的事項は,法律事項に該当するものというべきであつて(憲法31条),検察官はその答弁書において,右布告の内容は法律事項ではなく,死刑執行者の執行上の準則を定めたものに過ぎないから,現行法制からみれば法務省令をもつて規定しうるものであるというが,当裁判所は,かかる見解には賛成できない。将来右布告の中その基本的事項に関する部分を改廃する場合には,当然法律をもつてなすべきものである。なお,昭和22年法律72号「日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律」は,新憲法下において法律をもつて規定することを要するとされている事項を定めた従前の命令の規定につき,その新憲法下における効力を定めたものであつて,旧憲法下において既に法律としての効力の認められた法令(例えば本件明治6年太政官布告65号のごとく旧憲法76条により法律として遵由の効力を認められたと解されるもの,または旧憲法8条による緊急勅令であつて帝国議会の承諾を得たもの等)については,触れるところはない。それ故,右布告は,右法律によつて昭和二2年12月31日限り効力を失ったものであると解する余地はなく,新憲法下においても,法律と同一の効力を有するものとして存続しているのである。そして,現行死刑の執行方法が憲法36条の「残虐な刑罰」に当らないことは,上記論旨第1点についての説明中に引用した当裁判所の判例の示すとおりであるから,右布告は新憲法下において,法律と同一の効力を有するものとして有効に存続しているといわなければならない(憲法98条1項)。

 しからば,死刑に関する現行法制としては,刑法11条,監獄法71条1項,72条,刑訴法475条ないし478条等の法律の規定があるほか,憲法上法律と同一の効力を有すると認められる明治6年太政官布告65号の規定が有効に存在し,これらの諸規定に基づきなされた本件死刑の宣告は,憲法31条にいう法律の定める手続によつてなされたものであることは明らかである。また,現在の死刑の執行方法が所論のように右太政官布告の規定どおりに行われていない点があるとしても,それは右布告で規定した死刑の執行方法の基本的事項に反しているものとは認められず,この一事をもつて憲法31条に違反するものとはいえない。それ故,右布告が既に失効したものであることを前提とする憲法31条,36条違反の主張は採るを得ない。

明治40年4月24日法律第45號刑法
第十一條 死刑ハ監獄内ニ於テ絞首シテ之ヲ執行ス 死刑ノ言渡ヲ受ケタル者ハ其執行ニ至ルマテ之ヲ監獄ニ拘置ス
明治41年3月27日法律第28號監獄法
第七十一條 死刑ノ執行ハ監獄內ノ刑場ニ於テ之ヲ爲ス 大祭祝日、一月一日二日及ヒ十二月三十一日ニハ死刑ヲ執行セス 第七十二條 死刑ヲ執行スル卜キハ絞首ノ後死相ヲ檢シ仍ホ五分時ヲ經ルニ非サレハ絞繩ヲ解クコトヲ得ス
昭和23年7月10日法律第131号刑事訴訟法改正
第四百七十五条 死刑の執行は、法務大臣の命令による。 前項の命令は、判決確定の日から六箇月以内にこれをしなければならない。但し、上訴権回復若しくは再審の請求、非常上告又は恩赦の出願若しくは申出がされその手続が終了するまでの期間及び共同被告人であつた者に対する判決が確定するまでの期間は、これをその期間に算入しない。 第四百三十八条 死刑の執行に立ち会つた検察事務官は、執行始末書を作り、検察官及び監獄の長又はその代理者とともに、これに署名押印しなければならない。
説明

 諸藩版籍奉還ノ請ヲ聽ス(明治2年太政官布告第543号),版籍奉還ヲ請ハサル諸藩ニ奉還ヲ命ス(明治2年太政官布告第544号)および京都東京大阪ヲ除クノ外諸府ヲ廢シテ縣ト爲ス(明治2年太政官布告第655号)により従前の藩は府県に改められ,その後明治6年太政官布告第65号が発せられた。

明治2年6月17日太政官布告第543号諸藩版籍奉還ノ請ヲ聽ス
版籍奉還願出候面々 今般版籍奉還之儀ニ付深ク時勢ヲ被爲察廣ク公議ヲ被爲採政令歸一之思食ヲ以テ言上之通被聞食候事
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明治2年6月17日太政官布告第544号版籍奉還ヲ請ハサル諸藩ニ奉還ヲ命ス
版籍奉還不願出候面々 今般版籍奉還之儀列藩及建言候ニ付深ク時勢ヲ被爲察廣ク公議ヲ被爲採政令歸一之思食ヲ以テ言上之通被聞食候依之於其藩モ封土版籍返上被仰付候事
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明治2年7月17日太政官布告第655号京都東京大阪ヲ除クノ外諸府ヲ廢シテ縣ト爲ス
今度御改正二付京都東京大坂三府之外諸府被廢總テ縣二被仰付候事
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 進んで,戦中に東京都制(昭和18年法律第89号)が発せられ,戦後に府県制が道府県制に改正されたが,明治6年太政官布告第65号は改正されることなく,今日に至る。北海道の編入,ないし沖縄の併合については,諸布告・施策で順次内地の一般法例を適用した歴史的経緯はあるものの,本判例はこれに言及しておらず,当時の府県にとらわれず全国的に適用されるべきとみえる。

昭和18年5月31日法律第89號東京都制
第一條 東京都ハ法人トス官ノ監督ヲ承ケ法令ノ範圍內ニ於テ其ノ公共事務及法令ニ依リ都ニ屬スル事務ヲ處理ス 第二條 都ノ區域ハ從來ノ東京府ノ區域ニ依ル
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昭和21年9月27日法律第27號府縣制の一部を改正する法律
題名を次のやうに改める。 道府縣制 第一條を第一條ノ二とし,同條の前に次のやうに加へる。 第一款 通則 第一條 本法中府縣、府縣住民、府縣條例、府縣規則、府縣會、府縣議員、府縣議員選擧管理委員、府縣參事會、府縣參事會員、府縣知事、府縣吏員、府縣出納吏、府縣廳、府縣稅、府縣債、府縣費、府縣組合又ハ府縣行政トアルハオノオノ道、道住民、道條例、道規則、道會、道會議長、道會議員選擧管理委員會、道會議員選擧管理委員、道參事會、道參事會員、道廳長官、道吏員、道出納吏、道廳、道稅、道債、道費、道府縣組合又ハ道行政ヲ含ムモノトス
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 刑事収容施設法は人を刑死に至らしめる具体的な手法を定めず,また本判例の言及する通り現在の死刑の執行方法は本布告に必ずしも沿わない。この点,政治的には,死刑制度そのものの存廃や残虐性などを巡る議論を巻き込むため,国会における議論を忌避しているとの見方がある。

 本判例はこのほか,将来,存続する布告の基本的事項に関する部分を改廃する場合には,法律をもってなすべきものである旨判示した点でも重要であり,これをもって憲法第31条の庶幾するところを満たされたという。