生命及び自由の保障と科刑の制約
Protection of Life and Liberty and Restrictions on Punishment
死刑制度
明治6年太政官布告第65号の存続と罪刑法定主義
➀ 明治六年太政官布告第六五号絞罪器械図式は、現在法律と同一の効力を有するものとして有効に存続している。
➁ 将来,存続する布告の基本的事項に関する部分を改廃する場合には,法律をもってなすべきである。
最大判 昭和36年7月19日
要旨論旨は,死刑の執行方法について法律の定めがないに拘らず,その方法を特定することなく敢えて絞首刑たる死刑を宣告したことは,憲法31条,36条に違反すると主張する。
しかし死刑の執行方法に関する事項を定めた所論明治6年太政官布告65号は,同布告の制定後今日に至るまで廃止されまたは失効したと認むべき法的根拠は何ら存在しない。そして同布告の定めた死刑の執行方法に関する事項のすべてが,旧憲法下また新憲法下において,法律をもつて規定することを要する所謂法律事項であるとはいえないとしても,同布告は,死刑の執行方法に関し重要な事項(例えば,「凡絞刑ヲ行フニハ……両手ヲ背ニ縛シ……面ヲ掩ヒ……絞架ニ登セ踏板上ニ立シメ……絞縄ヲ首領ニ施シ……踏板忽チ開落シテ囚身……空ニ懸ル」等)を定めており,このような事項は,死刑の執行方法の基本的事項であつて,死刑のような重大な刑の執行方法に関する基本的事項は,旧憲法下においても法律事項に該当すると解するを相当とし(旧憲法23条),その限度においては同布告は旧憲法下において既に法律として遵由の効力を有していたものと解するを相当とする。けだし,旧憲法前の法令は,その名称の如何を問わず,旧憲法下において法律をもつて定むべき事項を定めたものは,法律として遵由の効力を有していたからである。(旧憲法76条1項。この理は,同布告自体が旧憲法下において1回も改正される機会がなかったことによつても,何ら異なるところはない。)更に新憲法下においても,同布告に定められたような死刑の執行方法に関する基本的事項は,法律事項に該当するものというべきであつて(憲法31条),検察官はその答弁書において,右布告の内容は法律事項ではなく,死刑執行者の執行上の準則を定めたものに過ぎないから,現行法制からみれば法務省令をもつて規定しうるものであるというが,当裁判所は,かかる見解には賛成できない。将来右布告の中その基本的事項に関する部分を改廃する場合には,当然法律をもつてなすべきものである。なお,昭和22年法律72号「日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律」は,新憲法下において法律をもつて規定することを要するとされている事項を定めた従前の命令の規定につき,その新憲法下における効力を定めたものであつて,旧憲法下において既に法律としての効力の認められた法令(例えば本件明治6年太政官布告65号のごとく旧憲法76条により法律として遵由の効力を認められたと解されるもの,または旧憲法8条による緊急勅令であつて帝国議会の承諾を得たもの等)については,触れるところはない。それ故,右布告は,右法律によつて昭和二2年12月31日限り効力を失ったものであると解する余地はなく,新憲法下においても,法律と同一の効力を有するものとして存続しているのである。そして,現行死刑の執行方法が憲法36条の「残虐な刑罰」に当らないことは,上記論旨第1点についての説明中に引用した当裁判所の判例の示すとおりであるから,右布告は新憲法下において,法律と同一の効力を有するものとして有効に存続しているといわなければならない(憲法98条1項)。
しからば,死刑に関する現行法制としては,刑法11条,監獄法71条1項,72条,刑訴法475条ないし478条等の法律の規定があるほか,憲法上法律と同一の効力を有すると認められる明治6年太政官布告65号の規定が有効に存在し,これらの諸規定に基づきなされた本件死刑の宣告は,憲法31条にいう法律の定める手続によつてなされたものであることは明らかである。また,現在の死刑の執行方法が所論のように右太政官布告の規定どおりに行われていない点があるとしても,それは右布告で規定した死刑の執行方法の基本的事項に反しているものとは認められず,この一事をもつて憲法31条に違反するものとはいえない。それ故,右布告が既に失効したものであることを前提とする憲法31条,36条違反の主張は採るを得ない。
諸藩版籍奉還ノ請ヲ聽ス(明治2年太政官布告第543号),版籍奉還ヲ請ハサル諸藩ニ奉還ヲ命ス(明治2年太政官布告第544号)および京都東京大阪ヲ除クノ外諸府ヲ廢シテ縣ト爲ス(明治2年太政官布告第655号)により従前の藩は府県に改められ,その後明治6年太政官布告第65号が発せられた。
進んで,戦中に東京都制(昭和18年法律第89号)が発せられ,戦後に府県制が道府県制に改正されたが,明治6年太政官布告第65号は改正されることなく,今日に至る。北海道の編入,ないし沖縄の併合については,諸布告・施策で順次内地の一般法例を適用した歴史的経緯はあるものの,本判例はこれに言及しておらず,当時の府県にとらわれず全国的に適用されるべきとみえる。
刑事収容施設法は人を刑死に至らしめる具体的な手法を定めず,また本判例の言及する通り現在の死刑の執行方法は本布告に必ずしも沿わない。この点,政治的には,死刑制度そのものの存廃や残虐性などを巡る議論を巻き込むため,国会における議論を忌避しているとの見方がある。
本判例はこのほか,将来,存続する布告の基本的事項に関する部分を改廃する場合には,法律をもってなすべきものである旨判示した点でも重要であり,これをもって憲法第31条の庶幾するところを満たされたという。