1-1-3. 落体の運動
Free-Fall Motion
運動方程式
運動方程式
一定質量 の物体に加えている力 とそのときの加速度ベクトル の関係は、物体の速度が光速に比べて十分に遅い限りにおいて、次のように表す。
アイザック・ニュートンは著書『Philosophiæ Naturalis Principia Mathematica』(1687年7月5日)通称『プリンキピア』において、力とは「単位時間あたりの運動量の変化」であると定義した。 質量 の物体が速度 で運動しているとき、その運動の勢いを表す量として「運動量」 を次のように定義する。
時間 における運動量の時間変化率、すなわち微分の記号を用いると、ニュートンが提唱した本来の運動方程式は次のように表される。
この式に を代入して、 を導くことを考える。
ここで、日常的な力学現象では物体の質量 は時間によって変化しない(定数である)とみなせる。微分の性質により、定数 は微分の外に出すことができるから、
なお無視できないほど質量 が時間によって変化する場合、すなわち物体の速度が光速に近づく場合、この仮定は成り立たないから、運動方程式を用いることはできない。このことは後に原子物理の分野で詳しく述べる。 速度 の時間微分 は、「単位時間あたりの速度の変化」、すなわち加速度 に他ならない。
したがって、これらを結びつけることで、質量が一定という条件のもとで定義通りの式が導かれる。
ここで注意すべきは、この運動方程式は純粋な数学的論理のみから証明された定理ではなく、無数の実験や観察によって裏付けられた自然界の「経験則」であるという点である。 さらに、この式は単に既知の数値を当てはめて答えを算出するための計算式ではない。物体に力 が働くこと(原因)によって、動かしにくさの指標である質量 を介し、加速度 という運動状態の変化(結果)が生じるという、自然界の因果関係を表す「関係式」として捉えることが極めて重要である。
ここに運動量 よりも先に運動方程式を掲載するのは、身の回りでは質量が一定の現象が大半であり、目に見える「加速度」を用いた方が直感的に上記の因果関係(運動の法則)を理解しやすいためである。
しかし、物理学をより広い視点で捉えたとき、 のままでは説明できない現象が存在する。 例えば、量子力学で扱う光の粒子(光子)は質量が であるため、この式に従えばいかなる力や運動の勢いも生み出さないことになる。 しかし実際には、光子は波長を 、プランク定数を として、次の運動量 を持つことが知られている。
質量がゼロであっても運動量を持つため、本来の定義である に立ち返ることで、光が物体を押す力(光圧)などを矛盾なく計算することができる。 このように、 は質量が一定であるという条件下での実用的かつ直感的な基本式であり、ロケットのような質量の変化や光子のようなミクロの現象といったより普遍的な自然界の法則を記述するためには、後に運動量を主役とした定式化へ拡張していく必要がある。
落体の運動
自由落下
物体を自由落下を始めた点を原点とし、鉛直下向きに 軸をとる。ただし重力加速度を とし、空気抵抗はないものとする。
速度時刻 における、物体の 軸方向の速度 は次のように求める。
位置時刻 における、物体の位置 は次のように求める。
質量 の物体に働く力は、鉛直下向きの重力のみである。 ここでは鉛直下向きを 軸の正の向きにとっているため、物体に働く力の 成分は と表される。 したがって、加速度を とすると、運動方程式 より
両辺を で割ることで、物体の加速度は時間によらず (一定)であることがわかる。
速度加速度 は速度 の時間微分 であるから、次の微分方程式が成り立つ。
これを時刻 について積分する。 を積分定数として、
初期条件として、「自由落下」とは初速 でそっと放す運動を指すため、 のとき である。
これより、時刻 における速度の式が導かれる。
位置速度 は位置 の時間微分 であるから、上で求めた速度の式より、
これをさらに時刻 について積分する。 を積分定数として、
初期条件として、落下を開始した点を原点にとっているため、 のとき位置 である。
これより、時刻 における位置の式が導かれる。
鉛直投げ上げ
物体を初速 で鉛直上向きに投げ上げた点を原点として、鉛直上向きに 軸をとる。ただし重力加速度を とし、空気抵抗はないものとする。
速度時刻 における、物体の 軸方向の速度 は次のように求める。
位置時刻 における、物体の位置 は次のように求める。
質量 の物体に働く力は、鉛直下向きの重力のみである。 ここでは鉛直上向きを 軸の正の向きにとっているため、物体に働く力の 成分は と表される。 したがって、加速度を とすると、運動方程式 より
両辺を で割ることで、物体の加速度は時間によらず (一定)であることがわかる。
速度加速度 は速度 の時間微分 であるから、次の微分方程式が成り立つ。
これを時刻 について積分する。 を積分定数として、
初期条件として、 (投げ上げた瞬間)のとき、初速 であるから、
これより、時刻 における速度の式が導かれる。
位置速度 は位置 の時間微分 であるから、上で求めた速度の式より、
これをさらに時刻 について積分する。 を積分定数として、
初期条件として、投げ上げた点を原点にとっているため、 のとき位置 である。
これより、時刻 における位置の式が導かれる。
水平投射
物体を初速 で水平右向きに投げた点を原点にとり、水平右向きに 軸、鉛直下向きに 軸をとる。重力加速度を とし、空気抵抗はないものとする。
速度時刻 における、物体の速度ベクトル は次のように求める。
位置時刻 における、物体の位置ベクトル は次のように求める。
座標物体の軌跡の式は次のように求める。
各成分の加速度を時刻 で積分する。 を積分定数とすると、
初期条件として、 のとき、物体は水平方向に初速 を与えられており、鉛直方向の初速は である。
したがって、速度ベクトルは次のように導かれる。
位置上で求めた速度をさらに時刻 で積分する。 を積分定数とすると、
初期条件として、投げた点を原点()としているため、 のとき である。
したがって、位置ベクトルは次のように導かれる。
座標、 だから、 を消去して
斜方投射
水平右向きに 軸、鉛直上向きに 軸をとり、物体を 軸正の向きと角度 をなす方向に初速 で投げた点を原点にとる。重力加速度を とする。
速度時刻 における速度ベクトル は次のように求める。
位置時刻 における位置ベクトル は次のように求める。
座標物体の座標が のとき、 は を用いて次のように求める。
最大飛距離を与える角度軸方向に物体が最大飛距離を与える角度 は次の式を満たす。
物体に働く力は鉛直下向きの重力のみである。運動方程式 を成分ごとに立てると、
速度加速度を時刻 で積分する。 を積分定数とすると、
初期条件として、 における速度ベクトルは であるから、
よって、速度ベクトル が導かれる。
位置速度をさらに時刻 で積分する。 を積分定数とすると、
初期条件として、原点()から投げているため で である。したがって となり、位置ベクトル が導かれる。
座標位置の成分表示から時刻 を消去する。 の式より 。これを の式に代入すると、
ここで、三角関数の相互関係 を用いて のみを用いた軌道の式を求めると
最大飛距離を与える角度まず、物体が再び地上()に戻るまでの滞空時間 を求める。位置 の式より
投げ上げた瞬間()を除外すると、 であり、このときの水平到達距離 は、水平方向の位置の式 に代入して
ここで、三角関数に関する数学公式 を用いると、飛距離 は角度 の関数として
初速 と重力加速度 が一定であるとき、 が最大値をとるのは が最大値 をとるときである。
空気抵抗がある場合、角度 ()よりも、わずかに小さい角度で投げる方が飛距離が伸びる。
質点の到達可能範囲(包絡線)
物体を初速 で投げた点を 座標の原点に取り、鉛直上向きに 軸を取る。重力加速度を とし、空気抵抗はないものとするとき、物体の到達可能面の式(境界を表す曲面)は次のように求める。
空間は 軸周りに対称であるため、水平方向の距離を とし、投射角を とする。時刻 における物体の位置は次のように表せる。
のとき、①式より であり、これを②式に代入すると
ここで、三角関数の相互関係 を用いて のみで書き換えると、
導出1ある座標 に到達可能であるとは、③式を満たす実数 が存在することと同値である。 とおき、③式を についての2次方程式として整理すると
この方程式が実数解を持つ条件(判別式 )を考える。
のとき、両辺を で割り、さらに を掛けて整理すると、
この等号成立時が求める到達可能面である。
導出2ある地点 を固定したとき、高さ が最大となる角度 を探す。③式を について平方完成すると、
第1項は のとき最大値 をとる。したがって、到達可能な最高の高さは、定数項部分として求まる。
なお のとき、すなわち物体が 軸上を運動する( のときもふくむ)とき、物体を真上に投げ上げた場合に相当する。 物体の初期位置、初速度は で、位置において速度は、鉛直上向きに軸をとっているから物体の加速度はだから
したがって本公式は および のときもなりたつ。
等号成立条件は次のように、後述する力学的エネルギー保存の法則を用いて確認することもできる。
投げ上げた瞬間の運動エネルギー であり、最高点での位置エネルギー だから、エネルギー保存則()より
この到達可能範囲の式において、不等号()は物体が飛んでくる可能性のある「全領域」を指し、等号()はその領域の「ふち(面)」を指している。
ある標的(座標 )を狙うとき、判別式 となる領域内部では、 の解が2つ存在する。これは、同じ標的に対して「低い角度で鋭く投げる軌道(低射弾道)」と「高い角度で大きく弧を描く軌道(高射弾道)」の2通りで命中させられることを意味している。
標的が遠ざかり、境界である到達可能面の上に位置すると、この2通りの投射角の差は次第に縮まり、最終的に 、すなわち重解(たった1通りの角度)となる。これは、低射弾道と高射弾道のルートが完全に重なり、その点に届かせるための「唯一無二の投げ方」しか存在しなくなった状態を意味する。このとき、物体の軌道は境界となる面に対してちょうど接する形となる。
数学的には、この等号が成立する面は無数の放物線すべてを含む「包絡線(ほうらくせん)」と呼ばれる。一つひとつの放物線は、この面を決して突き破ることはできず、この面に触れたとしてもたった一点で触れて落下する。この「触れる点」を繋ぎ合わせたものが境界 である。
台から投げる物体に最大飛距離を与える角度
水平右向きに 軸、鉛直上向きに 軸をとり、原点から高さ の地点から物体を 軸正の向きと角度 をなす方向に初速 で投げたとき、 軸方向に物体が最大飛距離を与える角度 は次の式を満たす。なお重力加速度を とする。
打ち上げ地点を とすると、落下地点(地面)の座標は と表せるから斜方投射の軌道の式(座標の式)
を用いて、ある角 で打ち上げた物体の軌道の式は
ここで、 は角度 の関数 であり、投げる角度を一つ定めると飛距離を一意に定めることのできる関数である。
したがって飛距離 が最大値をとるとき、すなわちこれ以上 を増減しても飛距離 が伸びないとき、角度を微小に変えて飛距離がどれだけ変化するかを示す変化率
を満たす角 が存在する。ゆえにまず①式の両辺を で微分すると、積の微分に関する数学公式 および三角関数の微分に関する数学公式 を用いて
ここで を代入して整理すると、
②式を満たす角 とすると、①式より
したがって両辺に を掛けて整理して
これより、最大飛距離を与える角度 の条件は
包絡線(到達可能面)を用いて求めることもできる。
到達可能範囲の境界の式は である。地面 における最大到達点 は
包絡線の 導出2 で、境界上の点に到達するための投射角は で与えられると導出した。これを用いると
を得る。「最も遠い点(境界)」を考えることは、数学的には「変数を固定したときの最大値を追跡する」ことと等価である。
2落体の衝突条件(モンキーハンティング)
物体を 軸正の向きと角度 をなす方向に初速 で斜方投射した点を原点とし、同時に座標 から小球を自由落下させる。このとき、2物体が衝突するような は次の式を満たす。
時刻 における物体の位置 は
物体の 座標が になるのは のときで、このとき 座標は
一方、自由落下する小球の 座標は
両者の 座標が一致すれば衝突するので、
これを解いて 。
2物体の空中衝突条件
平面において、原点 にある質点Aを初速ベクトル で、座標 にある質点Bを初速ベクトル で同時に斜方投射する。重力加速度を とし、それぞれの初速を次のように成分表示する。
衝突条件二つの物体が空中で衝突するための必要条件は、二つの初速度の鉛直成分が等しく、かつ水平方向にAがBに追いつく相対速度を持つことである。
衝突時刻上記の条件を満たすとき、投射から衝突までの時間 は次のように求める。
(※ 実際に空中で衝突するためには、この時刻において 座標が正である条件 を満たす必要がある)
それぞれの質点の時刻 における位置ベクトル および を、成分ごとに立式する。質点Aは原点から、質点Bは から投射されるため、
二つの物体が衝突するということは、ある時刻 において が成り立つということである。まず 成分(鉛直方向)が等しくなる条件を比較すると、
共通する重力落下分 が相殺され、時間 で両辺を割ることで という条件が導かれる。 次に 成分(水平方向)が等しくなる条件を比較すると、
これを について整理すると となる。距離 かつ時間 でなければならないため、 であることが要求され、同時に衝突時刻 が導出される。
解法2:相対位置ベクトルによる導出相対速度の概念を用いて、質点Aから見た質点Bの相対的な運動を考える。 質点Aおよび質点Bに働く加速度はともに鉛直下向きの重力 であるから、位置ベクトルはそれぞれ次のように書ける。
Aから見たBの相対位置ベクトル は、これらを差し引くことで計算できる。
衝突するとき、相対距離はゼロになるため となる。このベクトル方程式の各成分が になる条件を考えると、
となり、成分ごとの運動方程式を解いた場合と全く同じ結論が、より見通し良く導き出される。
相対速度とガリレイの相対性原理
解法2が示す事実は、物理学において極めて深遠な意味を持つ。両物体とも重力 という同じ加速度を受けているため、一方から他方を見たときの「相対加速度」は となる。すなわち、地上から見れば互いに放物線を描く複雑な運動であっても、AからB(あるいはBからA)を見れば、重力の影響が完全に相殺され、単なる「等速直線運動」に見えるのである。
この視点に立つと、衝突条件である は、「Aから見てBが上下に動かず、真正面(水平方向)から一直線に向かってくるように見えるための条件」と解釈できる。この考え方を応用した有名な物理の思考実験に「モンキーハンティング(木から落ちる猿を銃で撃つ実験)」がある。猿と弾丸が同時に同じ重力落下を始めるため、「相対加速度がゼロになる系」から見れば弾丸は直線的に飛ぶように見える。ゆえに、面倒な放物線の計算を一切行わずとも「最初から猿に真っ直ぐ狙いを定めて撃てば必ず当たる」という結論を直感的に導き出すことができる。ベクトルと相対速度の概念を導入する真の価値は、このような「現象の本質を抜き出し、運動を劇的にシンプルに捉え直すこと」にある。