2-2-3. 不可逆変化・熱機関
Irreversible Change and Heat Engines
熱力学第二法則と不可逆変化
熱力学第二法則
熱力学第一法則(エネルギー保存則)が変化の「方向」については何も規定しないのに対し,第二法則は自然界で起こる変化には決まった向きがあり,その逆は自発的には起こらないという「不可逆性」を規定する。この法則には,互いに同等ないくつかの表現が存在する。
クラウジウスの原理 熱は,他に何の変化も残さずに,低温の物体から高温の物体へ自発的に移動することはない。
トムソンの原理(ケルビンの原理) 熱を完全に仕事に変換するような,ただ一つの熱源から熱を受け取って周期的に動作し続ける熱機関(第二種永久機関)は実現不可能である。
エントロピー増大の法則 外部から孤立した系(孤立系)において,自発的な変化は常に系の無秩序さの度合い(エントロピー)が増大する方向に進む。
可逆変化と不可逆変化 熱力学的な変化の過程において,もし外部の条件をわずかに逆転させるだけで,系と外部環境の両方を完全に元の状態に戻すことができるならば,その変化を「可逆変化」と呼ぶ。摩擦や抵抗がなく,無限にゆっくりと進行する準静的過程がこれに相当する。
しかし,現実世界で起こる変化のほとんどは「不可逆変化」である。例えば,インクが水に広がる現象や,摩擦によって熱が発生する現象は,決して自発的に逆の過程をたどることはない。これらの変化では,系全体として「乱雑さ(エントロピー)」が増しており,元に戻すためには外部からエネルギーを投入して何らかの「仕事」をする必要がある。 熱力学第二法則は,この宇宙全体の時間が過去から未来へと一方向にしか流れない根本的な理由を説明する物理学の根幹をなす法則の一つである。
熱機関と熱効率
熱効率
熱機関が高温熱源から受け取った熱量を ,低温熱源へ排出した熱量を とし,その差分を外部への正味の仕事 として取り出すとき,投入した熱量に対する得られた仕事の割合を示す熱効率 は次のように定義される。
熱力学第一法則より,1サイクル後には内部エネルギーが元に戻るため となり,系全体のエネルギー収支は となる。 熱効率は,投入した熱エネルギーのうち,どれだけの割合を有効な仕事として取り出せたかを示す指標である。熱力学第二法則により,必ず一部の熱を低温側に排出する必要があるため( ),熱効率が (100%)になることは決してない。
カルノーサイクルの熱効率
温度 の高温熱源と温度 の低温熱源の間で動作する,理論上最も効率の良い可逆的な熱サイクル(カルノーサイクル)における熱効率 は,熱源の絶対温度のみを用いて次のように求められる。
理想気体を動作物質とするカルノーサイクルは,次の4つの可逆過程から構成される。
- 等温膨張(A→B): 温度 を保ちながら,体積が から へ膨張する。この過程で,高温熱源から熱量 を吸収する。
- 断熱膨張(B→C): 外部との熱のやり取りを断ち,体積が から へ膨張する。この過程で,気体は内部エネルギーを消費して仕事をするため,温度は から へと低下する。
- 等温圧縮(C→D): 温度 を保ちながら,体積が から へ圧縮される。この過程で,低温熱源へ熱量 を放出する。
- 断熱圧縮(D→A): 外部との熱のやり取りを断ち,体積が から へ圧縮される。この過程で,外部から仕事をされることで温度は から へと上昇し,元の状態に戻る。
等温過程において,理想気体の内部エネルギーは変化しないため,熱力学第一法則より吸収・放出される熱量は気体がする仕事に等しい。
次に,断熱過程において,ポアソンの公式 を適用する。
上の式を下の式で辺々割ると,温度の項が消去され,体積比に関する重要な関係が得られる。
最後に,熱効率の定義式に と を代入する。
ここで,導き出した体積比の関係 を用いると,対数の項が完全に打ち消し合う。
これにより,カルノーサイクルの熱効率は,使用する気体の種類( や )やサイクルの大きさ( など)には一切依存せず,2つの熱源の絶対温度の比のみによって決定されるという普遍的な結論が導かれる。
カルノーの定理と不可逆性 カルノーの定理は,「同じ2つの熱源の間で動作するいかなる熱機関も,可逆的なカルノーサイクルの効率を超えることはできない」と主張する。 これは,もしカルノーサイクルより高効率な不可逆機関が存在すると仮定すると,その機関が取り出した仕事の一部を使ってカルノーサイクルを逆回転(ヒートポンプとして動作)させることができる。その結果,全体として低温熱源から熱を奪い,高温熱源へ熱を移動させるだけの装置が実現できてしまい,これは熱力学第二法則(クラウジウスの原理)に反する。 したがって,カルノーサイクルは熱機関が達成しうる理論上の最大効率を与えており,現実のエンジン設計における究極の目標となっている。