1-2-4. 摩擦力

Frictional Force

摩擦係数とつり合い

公式

静止摩擦係数

粗い水平面上に置かれた質量 mm の物体に、水平方向に力 ff を加えたとき物体が滑り始めたとする。重力加速度を gg とするとき、面と物体の間の静止摩擦係数 μ\mu は次のように求める。

μ=fmg\mu = \dfrac{f}{mg}
導出

物体が「滑り始めた」ということは、引く力 ff が最大静止摩擦力 μN\mu N にちょうど達した瞬間であることを意味する。 水平方向および鉛直方向の力のつり合いの式を立てると、

{fμN=0(水平方向)Nmg=0(鉛直方向)\begin{cases} f - \mu N = 0 & \text{(水平方向)} \\ N - mg = 0 & \text{(鉛直方向)} \end{cases}

鉛直方向の式より垂直抗力は N=mgN = mg である。これを水平方向の式に代入すると、

fμmg=0    μ=fmgf - \mu mg = 0 \implies \mu = \dfrac{f}{mg}

が導かれる。

公式

水平摩擦面と角度

粗い水平面上に置かれた質量 mm の物体に、水平から角度 θ\theta だけ上向きに力 ff を加えたとき物体が滑り始めたとする。重力加速度を gg とするとき、静止摩擦係数 μ\mu は次のように求める。

μ=fcosθmgfsinθ\mu = \dfrac{f\cos\theta}{mg - f\sin\theta}
導出

引く力 ff を水平成分 fcosθf\cos\theta と鉛直成分 fsinθf\sin\theta に分解する。 水平方向および鉛直方向の力のつり合いの式を立てると、

{fcosθμN=0(水平方向)N+fsinθmg=0(鉛直方向)\begin{cases} f\cos\theta - \mu N = 0 & \text{(水平方向)} \\ N + f\sin\theta - mg = 0 & \text{(鉛直方向)} \end{cases}

鉛直方向の式より、垂直抗力は N=mgfsinθN = mg - f\sin\theta となる(斜め上に引くことで面を押す力が弱まる)。 これを水平方向の式に代入すると、

fcosθμ(mgfsinθ)=0    μ=fcosθmgfsinθf\cos\theta - \mu(mg - f\sin\theta) = 0 \implies \mu = \dfrac{f\cos\theta}{mg - f\sin\theta}

が導かれる。

摩擦角と制動距離

公式

摩擦角

質量 mm の物体を粗い板の上に置き、板を少しずつ傾けていったとき、角度 θC\theta_C のところで物体が滑り始めた。この限界の角度 θC\theta_C摩擦角といい、最大静止摩擦係数 μ\mu との間に次の関係が成り立つ。

μ=tanθC\mu = \tan\theta_C
導出

板の傾きが θC\theta_C のとき、物体は滑り出す直前(最大静止摩擦力 μN\mu N がはたらく状態)である。 斜面に平行な xx 軸、垂直な yy 軸をとって力のつり合いの式を立てると、

{mgsinθCμN=0(斜面平行方向)NmgcosθC=0(斜面垂直方向)\begin{cases} mg\sin\theta_C - \mu N = 0 & \text{(斜面平行方向)} \\ N - mg\cos\theta_C = 0 & \text{(斜面垂直方向)} \end{cases}

垂直方向の式より N=mgcosθCN = mg\cos\theta_C。これを平行方向の式に代入すると、

mgsinθCμ(mgcosθC)=0mg\sin\theta_C - \mu(mg\cos\theta_C) = 0

両辺を mgcosθCmg\cos\theta_C で割ることで、μ=sinθCcosθC=tanθC\mu = \dfrac{\sin\theta_C}{\cos\theta_C} = \tan\theta_C が導出される。

説明

摩擦力のグラフと遷移 板の角度 θ\theta00 から徐々に大きくしていくときの、物体にはたらく摩擦力 RR の変化を考える。

  1. 0θθC0 \le \theta \le \theta_C の範囲: 物体は静止しているため、摩擦力 RR は重力の斜面成分とつり合う静止摩擦力としてはたらく。 R=mgsinθR = mg\sin\theta
  2. θC<θπ2\theta_C < \theta \le \dfrac{\pi}{2} の範囲: 物体は滑り出すため、摩擦力 RR は動摩擦力に切り替わる。動摩擦係数を μ\mu' とすると、 R=μN=μmgcosθR = \mu' N = \mu' mg\cos\theta グラフに描くと、θ=θC\theta = \theta_C の瞬間に摩擦力が最大値( μmgcosθC\mu mg\cos\theta_C )に達し、滑り出した直後に動摩擦力( μmgcosθC\mu' mg\cos\theta_C )へと不連続に値が落ちる。その後は cosθ\cos\theta のカーブに従って減少していく。
公式

制動距離

粗い水平面上において、質量 mm の物体に初速 v0v_0 を与えてすべらせた。動摩擦係数を μ\mu'、重力加速度を gg とするとき、物体がすべり出してから止まるまでの制動距離 xx は次のように求める。

x=v022μgx = \dfrac{{v_0}^2}{2\mu' g}
導出

運動中の物体の加速度を aa、垂直抗力を NN とし、進行方向を正として運動方程式を立てる。

{ma=μN(水平方向)0=Nmg(鉛直方向)\begin{cases} ma = -\mu' N & \text{(水平方向)} \\ 0 = N - mg & \text{(鉛直方向)} \end{cases}

これより N=mgN = mg となり、加速度は a=μga = -\mu' g と求まる。 等加速度直線運動の「時間を消去した公式」 v2v02=2axv^2 - {v_0}^2 = 2ax において、停止した瞬間の速度は v=0v=0 であるから、

02v02=2(μg)x    x=v022μg0^2 - {v_0}^2 = 2(-\mu' g)x \implies x = \dfrac{{v_0}^2}{2\mu' g}

が導かれる。

2物体間の摩擦(一体となって動く条件)

公式

2物体間の摩擦

なめらかな水平面上に置かれた質量 MM の台の上に、質量 mm の物体が乗っている。台を水平に力 ff で引くとき、台と物体の間の最大静止摩擦係数を μ\mu、動摩擦係数を μ\mu' とする。

物体と台が一体となって動く場合( 0fμ(M+m)g0 \le f \le \mu (M+m)g

物体と台は同じ加速度 aa で運動する。

a=fM+ma = \dfrac{f}{M+m}物体が台の上をすべる場合( f>μ(M+m)gf > \mu (M+m)g

物体の加速度 ama_m と台の加速度 aMa_M はそれぞれ異なる値となる。

{am=μgaM=fμmgM\begin{cases} a_m = \mu' g \\ a_M = \dfrac{f - \mu' mg}{M} \end{cases}
導出

物体と台の間にはたらく摩擦力を FF とする。物体は台から受ける摩擦力 FF によって前方に引っ張られ、台はその反作用として後方に FF の力を受ける。それぞれの運動方程式は次のようになる。

{mam=F(物体)MaM=fF(台)\begin{cases} m a_m = F & \text{(物体)} \\ M a_M = f - F & \text{(台)} \end{cases}一体となって動くための条件

物体が台の上で滑らないとき、両者の加速度は等しい( am=aM=aa_m = a_M = a )。2つの式を足し合わせると、

(M+m)a=f    a=fM+m(M + m)a = f \implies a = \dfrac{f}{M+m}

このとき、物体にはたらいている静止摩擦力 FF は、物体の運動方程式より

F=ma=mM+mfF = m a = \dfrac{m}{M+m}f

となる。物体が滑らないための条件は、この FF が最大静止摩擦力 μN\mu N (ここでは N=mgN=mg)を超えないことである。

Fμmg    mM+mfμmgF \le \mu mg \implies \dfrac{m}{M+m}f \le \mu mg

これを ff について解くと、一体となって動く限界の力は fμ(M+m)gf \le \mu(M+m)g と導かれる。

滑りながら動く場合

引く力 ff が限界 μ(M+m)g\mu(M+m)g を超えたとき、物体は台の上を滑るため、摩擦力 FF は動摩擦力に切り替わる。

F=μN=μmgF = \mu' N = \mu' mg

これを最初の運動方程式に代入して、それぞれの加速度を求める。

{mam=μmg    am=μgMaM=fμmg    aM=fμmgM\begin{cases} m a_m = \mu' mg \implies a_m = \mu' g \\ M a_M = f - \mu' mg \implies a_M = \dfrac{f - \mu' mg}{M} \end{cases}
説明

「滑るか滑らないか」の判定プロセス 2物体が重なっている問題では、最初から「滑る」か「一体となるか」が分からないことが多い。この導出で示したように、**「まずは一体となって動く(同じ加速度 aa を持つ)と仮定して、そのために必要な摩擦力 FF を逆算する」**というアプローチが鉄則である。 逆算した FF が最大静止摩擦力 μN\mu N より小さければ仮定は正しく、大きければ「その摩擦力は出せない」ため仮定が崩れ、滑っている( F=μNF = \mu' N )と判定できる。この背理法的な論理展開は、摩擦力を扱う上で最も重要かつ汎用性の高い物理的思考法である。