2-2-1. 気体の法則・分子の運動
Law of Gas and Motion of Molecules
絶対温度の定義
絶対温度
絶対温度 (単位:K)は,セルシウス温度 (単位:)を用いて次のように表される。
セルシウス温度 は,水の氷点( )と沸点( )の間の体積変化を等分することで定義される。温度 における理想気体の体積を とすると,シャルルの法則に基づき,温度 における体積 は体膨張係数 を用いて次のように表せる。
精密な実験結果から,すべての理想気体において体膨張係数は という共通の値を持つことが知られている。これを代入すると,
となる。この式から,理想気体は理論上 において体積がゼロになることが示唆される。この極限の温度を「熱運動が完全に停止する絶対零度」とし,ここを起点として目盛った温度を絶対温度 と呼ぶ。したがって, という関係が定義される。
マクロな気体の法則
ボイルの法則とシャルルの法則
一定温度において,一定量の理想気体の圧力 と体積 の積は常に一定である。
シャルルの法則一定圧力において,一定量の理想気体の体積 は絶対温度 に比例する。
ある気体の状態1( )から状態3( )への変化を,2つのステップに分けて考える。
ステップ1:温度を に保ったまま,圧力を まで変化させる。このときの体積を とすると,ボイルの法則より が成り立つ。 ステップ2:次に圧力を に保ったまま,温度を まで変化させる。シャルルの法則より が成り立つ。
1つ目の式から を求め,2つ目の式に代入する。
これにより,任意の状態で が一定値をとることが導かれる。
理想気体の状態方程式
物質量 の理想気体において,圧力 ,体積 ,絶対温度 の間には次の関係式が成り立つ。 ただし, は気体定数( )である。
ボイル・シャルルの法則 において,この定数の値は気体の量(物質量 )に比例することが実験的にわかっている。 標準状態( )における の理想気体の体積は である。このときの比 を気体定数 と定義すると,
が導出される。
気体分子運動論
分子の衝突と圧力の導出
一辺の長さ の立方体容器に,質量 の気体分子が 個閉じ込められている。分子が速さ でランダムに運動しているとき,壁が受ける圧力 は次のように求められる。
ある1つの分子が 軸方向に速度成分 を持って壁に衝突したとする。壁との衝突が完全弾性衝突であれば,衝突後の速度は となり,分子の運動量の変化は となる。 作用反作用の法則により,壁はこの分子から の力積を受け取る。
時間 内に受ける平均の力
分子が再び同じ壁に衝突するまでに走る距離は であるから,単位時間あたりの衝突回数は となる。 したがって,この分子が1秒間に壁に及ぼす平均の力 は,力積と回数の積で表される。
全分子による圧力
容器内の 個の分子全体の寄与を考える。個々の分子の速度成分の2乗の平均値を とすると,壁全体が受ける力 は,
空間は等方的であり,分子の運動に偏りがないとすれば, が成り立つ。速度の2乗の平均 を用いると, と書ける。 したがって, となる。圧力は面積あたりの力であるから,
が導出される。
平均運動エネルギーとボルツマン定数
絶対温度 の気体において,分子1個あたりの平均運動エネルギー は次のように求める。
マクロな状態方程式 と,ミクロな導出式 を結びつける。 後者の式を と変形する。 これに を代入した状態方程式 を等しいとおくと,
両辺の を消去し, をボルツマン定数 と置くと,
が導かれる。これにより,「温度」の本質が分子の平均的な運動エネルギーそのものであることが数学的に明示される。
大気と高度の物理
高度による圧力と密度の変化(等温大気モデル)
絶対温度 で一定の大気層において,基準面( )での圧力を ,密度を とする。1molあたりの空気の質量を とすると,高度 における圧力 および密度 は次のように表される。
大気圧の式密度の式高度 から までの微小な気柱を考える。底面積を とすると,この気柱内の空気の質量は である。 この気柱にはたらく鉛直方向の力のつりあいを考えると,上面からの圧力による力 と下面からの力 ,および重力 の関係より,
が得られる。また,状態方程式 より,密度 は と書ける。これを①式に代入する。
これは変数分離形の微分方程式である。両辺を積分すると,
で の初期条件より となるため,
が導出される。密度についても の関係から同様の指数関数的減少が示される。
実在気体への拡張
ファン・デル・ワールスの状態方程式
理想気体では無視していた「分子自体の体積」と「分子間に働く引力」を考慮した実在気体の状態方程式は,物質量 に対して次のように表される。
分子は大きさを持つため,空間内のすべてを自由に動き回れるわけではない。分子1個あたりが排除する体積を とすると,有効な自由空間は に減少する。
圧力の補正( )
分子間には引力(ファン・デル・ワールス力)がはたらく。ある分子が壁に衝突しようとするとき,背後の分子たちからの引力によってわずかに引き戻されるため,壁に及ぼす圧力は理想的な場合よりも低くなる。 この引き戻す力の強さは,「衝突する分子の数(密度)」と「引き戻す側の分子の数(密度)」の両方に比例するため,密度の2乗 に比例する補正項が加えられる。
分子の統計的性質
平均自由行程
分子数密度を (単位体積あたりの個数),分子の有効半径を とするとき,1つの分子が他の分子と衝突するまでに進む平均的な距離(平均自由行程) は次のように求められる。
半径 の分子が,他の静止した半径 の分子に衝突する条件は,中心間の距離が 以内に入ることである。 分子が距離 だけ進む間に掃過する「衝突円筒」の体積は となる。 平均してこの体積の中に他の分子がちょうど1個含まれるとき,その距離 が平均自由行程に相当する。
(※より厳密には,すべての分子が運動していることを考慮した相対速度の補正により,分母に が現れるモデルが一般的である)