1-3-1. 仕事
Work
仕事の定義
仕事
物体の進行方向に一定の力 を与えて距離 だけ移動させたとき,力 のした仕事 は次のように表す。
力学における「仕事」とは,日常用語の仕事とは異なり,「力」と「その力によって生じた移動距離」の積として厳密に定義される物理量である。力がどれほど大きくても,物体が移動しなければ( ),その力がした仕事はゼロである。仕事は,後述する「エネルギー(状態量)」を変化させるための「手段(プロセス量)」として極めて重要な役割を果たす。
仕事(積分形)
物体の進行方向に力 を与えて,位置 から まで移動させたとき,力 のした仕事 は次のように表す。
力が位置によって変化する場合,一定の力 の公式 を直接使うことはできない。そこで,移動区間を力が一定とみなせるほどの微小な距離に分割して考える。
位置 から の間を 等分し,その微小な区間の幅を とする。分割点(位置)を (ただし )とすると,微小区間 における仕事 は,その区間での力をほぼ で一定とみなして近似できる。
これを から まで足し合わせると,全体の仕事の近似値となる。
ここで,分割数 を無限大に近づける( )極限をとる。これは区分求積法による定積分の定義そのものである。
この積分は, と 軸に囲まれた領域の面積を求めることに対応している。
仕事(内積)
物体に一定の力ベクトル がはたらいて変位ベクトル だけ動かすとき,力がする仕事 は次のように求める。
3次元空間において,微小な変位 に対して,力 がする微小な仕事 は,各座標軸方向の仕事の和として次のように定義される。
これはベクトルの内積の定義そのものであり, と書ける。 ある経路 に沿って位置 から まで移動したときの全体の仕事 は,これを線積分して求める。
特に,力 が移動中に一定(定数ベクトル)であり,経路が直線(変位が )である場合は,積分を実行すると単純な内積の計算となる。
さまざまな力のする仕事
なめらかな水平面と仕事
なめらかな水平面上に置かれた物体につながれた糸を一定の力 で引っ張った。 と水平方向がなす角を とし,物体の変位の大きさを とすると,力 が物体にした仕事 は次のように求める。
変位ベクトル の大きさ(移動距離)を ,力ベクトル の大きさを とする。 仕事の定義(内積)より,
物理的には,「力 のうち,実際の移動方向(水平方向)に寄与する成分 のみが仕事をする」と解釈できる。鉛直成分 は移動方向と垂直(なす角が で )であるため,仕事はゼロとなる。
粗い水平面と仕事
粗い水平面上に置かれた物体につながれた糸を一定の張力 で引っ張ったところ,物体の変位の大きさが となった。張力 と水平方向がなす角を ,物体と水平面の間の動摩擦係数を ,重力加速度を とする。
張力 がする仕事張力 の大きさを とすると,仕事 は次のように求める。
摩擦力 がする仕事摩擦力 が物体にした仕事 は次のように求める。
張力がする仕事 なめらかな水平面の場合と全く同様に,内積の計算より となる。
摩擦力がする仕事 鉛直方向の力のつりあいの式を立てる。垂直抗力を とすると,
動摩擦力の大きさは である。 摩擦力 は常に物体の運動方向(変位 )と逆向きにはたらくため,両ベクトルのなす角は ( rad)となる。したがって,摩擦力がする仕事は負の値をとる。
斜面をすべる物体と仕事
傾き の粗い斜面上に質量 の物体を置き,斜面に沿って距離 だけ下方に滑らせた。物体と斜面の間の動摩擦係数を ,重力加速度を とする。
重力がする仕事重力 が物体にした仕事 は次のように求める。
摩擦力 がする仕事動摩擦力 が物体にした仕事 は次のように求める。
斜面に平行下向きを 軸正の向きにとる。変位ベクトルの大きさは である。
重力がする仕事 鉛直下向きにはたらく重力ベクトル と,斜面に沿った変位ベクトル のなす角は である。内積の計算を行うと,
(別解として,重力を斜面成分 と垂直成分 に分解し,平行な成分のみが仕事をするから と考えてもよい。)
摩擦力がする仕事 斜面に垂直な方向の力のつりあいより,垂直抗力は である。 したがって,動摩擦力の大きさは となる。 摩擦力は進行方向(変位 )と逆向きにはたらくため,なす角は である。
仕事率
仕事率
時間 の間に力が物体に対してなした仕事が のとき,単位時間あたりの仕事(仕事の能率)を表す仕事率 は次のように求める。
速度と仕事率
ある時刻において,物体が速度ベクトル で運動しており,力ベクトル を受けているとき,その瞬間の力 による仕事率 は次のように求める。
微小な時間 が経過したときの物体の変位ベクトルを とする。この間に力 (一定とみなせる)がなした仕事 は,内積の定義より である。
仕事率の定義式にこれを代入すると,
ここで,ある時刻 における「瞬間の」仕事率を求めるために,時間間隔 を限りなく に近づける極限をとる。微小変位を微小時間で割った極限は,速度ベクトル の定義( )そのものである。
これにより,瞬間の仕事率は「力と速度の内積」として計算できることが導出される。