2-2-2. 気体の状態変化
Thermodynamic Processes and Laws
自由度とエネルギー等分配則
エネルギーの等分配則
絶対温度 の熱平衡状態にある系において,運動の独立した各自由度あたりに平均して分配されるエネルギー は,ボルツマン定数 を用いて次のように表される。
この法則は統計力学の基本的な帰結である。 系全体が温度 の熱浴に接しているとき,各粒子のエネルギー分布はボルツマン分布に従う。 今,理想的な固体の原子振動や気体の並進運動を想定し,そのエネルギー(ハミルトニアン )が座標 や運動量 の2乗の和で表される系を考える。
ここで は系の全自由度, は各自由度に対応する変数である。 ある一つの自由度 についてのエネルギー の期待値を統計力学の手法( 空間における積分)を用いて求めると,次のような計算結果が得られる。
この数学的事実は,エネルギーがどの運動モードに対しても差別なく,温度に比例した一定量ずつ均等に割り振られるという物理的実態を示している。
自由度(Degrees of Freedom)
物体の状態や運動を完全に記述するために必要な,独立した変数の最小個数を自由度という。 熱力学においては,エネルギーを蓄えることができる運動の「種類」を指す。
ヘリウムやアルゴンのような単原子分子は,空間上の点(質点)として近似できる。 その運動は 軸方向の並進運動のみで記述されるため,並進の自由度は3である。 回転については,分子が球対称な点とみなせるため,どの軸のまわりに回転しても外側から見て状態に変化がなく,エネルギーの変化として観測されない。したがって,回転の自由度は0とみなす。
2原子分子の場合
酸素や窒素のような2原子分子は,2つの原子が結合したアレイ状の構造を持つ。 並進運動の自由度3に加え,分子軸に垂直な2つの軸まわりの回転運動が可能である。 分子軸そのものを回転軸とする回転については,単原子分子と同様の理由で無視できるため,回転の自由度は2となる。 したがって,通常の温度域における2原子分子の全自由度は となる。 (※極めて高温では原子間の振動の自由度も寄与するが,高校物理の範囲では無視することが一般的である)
内部エネルギー
理想気体の内部エネルギー
物質量 ,絶対温度 の理想気体が持つ内部エネルギー は,分子の構造によって次のように決まる。
単原子分子理想気体2原子分子理想気体内部エネルギーは,気体を構成する全分子のエネルギーの総和である。 1分子あたりの平均エネルギーは,自由度を とするとエネルギー等分配則より となる。 物質量 の気体に含まれる分子の総数は,アボガドロ定数 を用いて と表されるから,全エネルギー は次のようになる。
ここでボルツマン定数の定義 を用いると,
という一般式が得られる。 単原子分子では であるため となり,2原子分子では であるため が導かれる。 理想気体においては分子間力を無視するため,内部エネルギーは位置の関数にはならず,温度のみに依存する状態量となる。
熱力学の諸法則
熱力学の四法則
物体AとBが熱平衡にあり,BとCが熱平衡にあるならば,AとCもまた熱平衡にある。 これは「温度」という共通の指標を定義できることの根拠となる法則である。
熱力学第1法則(エネルギー保存則)
系に外部から与えられた熱量を ,系が外部になした仕事を ,内部エネルギーの変化を とすると,次の関係が成り立つ。
これは熱と仕事がエネルギーの異なる形態であることを示している。
熱力学第2法則(不可逆性の法則)
熱は自発的に高温部から低温部へ移動するが,その逆は起こらない。 あるいは,孤立系全体の不規則さの尺度である「エントロピー」は,自発的な変化によって必ず増大する。
熱力学第3法則(絶対零度の性質)
温度が絶対零度に近づくとき,すべての純物質の完全結晶のエントロピーはゼロになる。
比熱とマイヤーの関係式
定積モル比熱と定圧モル比熱
物質量 の気体の温度を 上昇させるのに必要な熱量をモル比熱という。
定積モル比熱体積を一定に保つ変化(定積変化)におけるモル比熱。
定圧モル比熱圧力を一定に保つ変化(定圧変化)におけるモル比熱。
定積変化では体積変化がないため,仕事は となる。 熱力学第1法則より である。 の気体の温度を 上げるのに必要な熱量は であり, 内部エネルギーの変化は であるから,
が導かれる。
定圧モル比熱の導出(マイヤーの関係式)
定圧変化において の気体の温度を 上げる際,熱力学第1法則は となる。 定圧下での仕事は であり,理想気体の状態方程式より が成り立つ。 したがって,
両辺を で割ることで,定圧モル比熱と定積モル比熱の間に成り立つマイヤーの関係式が得られる。
断熱変化とポアソンの公式
ポアソンの公式
外部との熱のやり取りがない状態でゆっくりと体積を変化させる過程(準静的断熱過程)において,比熱比 を用いると,次の関係が常に一定に保たれる。
断熱変化では であるから,熱力学第1法則より微小変化に対して次の式が成り立つ。
理想気体の状態方程式 を全微分すると, となる。 ここから を①式に代入する。
両辺に を掛け,マイヤーの関係式 を用いて整理する。
両辺を で割ると,
この微分方程式の両辺を積分する。
したがって, が導かれる。 また, をこれに代入すれば, より も導出される。
等温変化と断熱変化の傾き グラフ上での曲線の傾きを比較すると,等温変化( )の傾き に対し,断熱変化( )の傾きは微分により となる。 比熱比 は常に1より大きいため,断熱変化の曲線は等温変化よりも急な傾きを持つ。これは,断熱膨張においては外部へ仕事をすることによって内部エネルギーが消費され,温度そのものが低下するため,等温の場合よりも圧力がより大きく減少するという物理的実態を反映している。