1-3-4. 力学的エネルギーの保存

Conservation of Mechanical Energy

力学的エネルギー保存則

公式

力学的エネルギー保存則(重力)

鉛直上向きを正とする yy 軸をとる。質量 mm の物体が重力のみを受けて運動するとき(自由落下や放物運動など),物体の速度の大きさを vv,高さを yy とすると,次の関係式が常に成り立つ。 ただし重力加速度を gg とし,空気抵抗などは考えなくてよいものとする。

12mv2+mgy=const.\dfrac{1}{2}mv^2 + mgy = \text{const.}
導出

物体に対して鉛直方向の運動方程式を立てる。時刻 tt における速度の yy 成分を vyv_y とすると,

mdvydt=mgm\dfrac{dv_y}{dt} = -mg

となる。物体が高さ y1y_1 から y2y_2 まで移動するとき,これに伴い速度の大きさが v1v_1 から v2v_2 へ変化したとする。 運動方程式の両辺を位置 yyy1y_1 から y2y_2 まで積分する。

y1y2mdvydtdy=y1y2(mg)dy\int_{y_1}^{y_2} m\dfrac{dv_y}{dt} \, dy = \int_{y_1}^{y_2} (-mg) \, dy

左辺は「運動エネルギーと仕事の関係」で示した通り,運動エネルギーの変化量となる。(3次元運動の場合でも,合力が重力のみであれば,速度ベクトル全体の大きさ vv の変化として左辺は計算される)。

12mv2212mv12\dfrac{1}{2}m{v_2}^2 - \dfrac{1}{2}m{v_1}^2

右辺は重力がした仕事であり,積分を実行すると次のようになる。

[mgy]y1y2=mgy2(mgy1)=mgy1mgy2\left[ -mgy \right]_{y_1}^{y_2} = -mgy_2 - (-mgy_1) = mgy_1 - mgy_2

これらを等号で結び,添え字の 1122 をそれぞれ左辺と右辺にまとめる。

12mv2212mv12=mgy1mgy212mv12+mgy1=12mv22+mgy2\begin{aligned} \dfrac{1}{2}m{v_2}^2 - \dfrac{1}{2}m{v_1}^2 &= mgy_1 - mgy_2 \\ \dfrac{1}{2}m{v_1}^2 + mgy_1 &= \dfrac{1}{2}m{v_2}^2 + mgy_2 \end{aligned}

この結果は,任意の2点間において「運動エネルギーと位置エネルギーの和」が等しいことを示している。ゆえに 12mv2+mgy=const.\dfrac{1}{2}mv^2 + mgy = \text{const.} が導出される。

公式

力学的エネルギー保存則(弾性力)

ばね定数 kk のばねにつながれ,なめらかな水平面上を運動する質量 mm の物体について,物体の速度を vv,自然長からの変位を xx とすると,次の関係式が常に成り立つ。

12mv2+12kx2=const.\dfrac{1}{2}mv^2 + \dfrac{1}{2}kx^2 = \text{const.}
導出

ばねが自然長となる位置を原点とし,水平方向に xx 軸をとる。物体に対する運動方程式はフックの法則より,

mdvdt=kxm\dfrac{dv}{dt} = -kx

となる。物体が位置 x1x_1 から x2x_2 へ移動し,速度が v1v_1 から v2v_2 に変化したとして,両辺を xx で積分する。

x1x2mdvdtdx=x1x2(kx)dx\int_{x_1}^{x_2} m\dfrac{dv}{dt} \, dx = \int_{x_1}^{x_2} (-kx) \, dx

左辺は運動エネルギーの変化量 12mv2212mv12\dfrac{1}{2}m{v_2}^2 - \dfrac{1}{2}m{v_1}^2 となる。 右辺は弾性力がした仕事であり,積分を実行すると,

[12kx2]x1x2=12kx22(12kx12)=12kx1212kx22\left[ -\dfrac{1}{2}kx^2 \right]_{x_1}^{x_2} = -\dfrac{1}{2}k{x_2}^2 - \left(-\dfrac{1}{2}k{x_1}^2\right) = \dfrac{1}{2}k{x_1}^2 - \dfrac{1}{2}k{x_2}^2

これらを等号で結んで整理する。

12mv2212mv12=12kx1212kx2212mv12+12kx12=12mv22+12kx22\begin{aligned} \dfrac{1}{2}m{v_2}^2 - \dfrac{1}{2}m{v_1}^2 &= \dfrac{1}{2}k{x_1}^2 - \dfrac{1}{2}k{x_2}^2 \\ \dfrac{1}{2}m{v_1}^2 + \dfrac{1}{2}k{x_1}^2 &= \dfrac{1}{2}m{v_2}^2 + \dfrac{1}{2}k{x_2}^2 \end{aligned}

ゆえに,弾性力のみが仕事をする運動において 12mv2+12kx2=const.\dfrac{1}{2}mv^2 + \dfrac{1}{2}kx^2 = \text{const.} が導出される。

複数の保存力がはたらく場合

公式

鉛直ばねの力学的エネルギー保存則

ばね定数 kk のばねを天井からつるし,下端に質量 mm の物体を取り付けて鉛直方向に運動させる。重力加速度を gg とするとき,座標軸の取り方によって次の2つの保存則の表現が可能である。

自然長を原点とする場合

鉛直下向きに yy 軸をとり,ばねが自然長となる位置を y=0y=0 とする。このとき,運動エネルギー,重力の位置エネルギー,弾性エネルギーの和が保存される。

12mv2mgy+12ky2=const.\dfrac{1}{2}mv^2 - mgy + \dfrac{1}{2}ky^2 = \text{const.}

(※ yy 軸を下向きにとっているため,高さが下がるほど重力位置エネルギーは減少する形となる)

つりあいの位置を原点とする場合

物体を静かにつるしたときに静止する「つりあいの位置」を原点 y=0y'=0 とし,鉛直下向きに yy' 軸をとる。このとき,重力の位置エネルギーは見かけ上消去され,運動エネルギーと弾性エネルギーの和のみが保存されるように振る舞う。

12mv2+12ky2=const.\dfrac{1}{2}mv^2 + \dfrac{1}{2}ky'^2 = \text{const.}
導出

自然長を原点とし,鉛直下向きを正とする yy 軸をとる。物体にはたらく力は下向きの重力 mgmg と上向きの弾性力 ky-ky であるから,運動方程式は,

mdvdt=mgkym\dfrac{dv}{dt} = mg - ky

となる。両辺を位置 yy について y1y_1 から y2y_2 まで積分する。

y1y2mdvdtdy=y1y2(mgky)dy\int_{y_1}^{y_2} m\dfrac{dv}{dt} \, dy = \int_{y_1}^{y_2} (mg - ky) \, dy

左辺は 12mv2212mv12\dfrac{1}{2}m{v_2}^2 - \dfrac{1}{2}m{v_1}^2 となる。右辺を積分すると,

[mgy12ky2]y1y2=(mgy212ky22)(mgy112ky12)\left[ mgy - \dfrac{1}{2}ky^2 \right]_{y_1}^{y_2} = \left( mgy_2 - \dfrac{1}{2}k{y_2}^2 \right) - \left( mgy_1 - \dfrac{1}{2}k{y_1}^2 \right)

両辺を等号で結び,添え字の 1122 で整理すると,

12mv12mgy1+12ky12=12mv22mgy2+12ky22\dfrac{1}{2}m{v_1}^2 - mgy_1 + \dfrac{1}{2}k{y_1}^2 = \dfrac{1}{2}m{v_2}^2 - mgy_2 + \dfrac{1}{2}k{y_2}^2

となり,自然長を基準とした3つのエネルギーの和の保存が導かれる。


つりあいの位置を原点とする場合の証明

力のつりあいの位置を y0y_0 とすると,mgky0=0mg - ky_0 = 0 より y0=mgky_0 = \dfrac{mg}{k} である。 ここからさらに yy' だけ変位した位置 y=y0+yy = y_0 + y' を運動方程式に代入する。

mdvdt=mgk(y0+y)=mgky0ky=kym\dfrac{dv}{dt} = mg - k(y_0 + y') = mg - ky_0 - ky' = -ky'

この式は,重力 mgmg が見かけ上消滅し,つりあいの位置を原点とする単純なばねの運動方程式と全く同じ形になることを示している。したがって,これを yy' で積分すれば,水平ばねと同様の 12mv2+12ky2=const.\dfrac{1}{2}mv^2 + \dfrac{1}{2}ky'^2 = \text{const.} が直ちに導かれる。

非保存力がはたらく場合

公式

非保存力と力学的エネルギーの変化

物体に重力や弾性力といった「保存力」だけでなく,摩擦力や空気抵抗のような「非保存力」がはたらく場合,力学的エネルギーは保存されず,非保存力がした仕事の分だけ変化する。

ΔE=W非保存力\Delta E = W_{\text{非保存力}}

(※ ΔE=EE\Delta E = E_{\text{後}} - E_{\text{前}} は力学的エネルギーの変化量)

斜面をすべる物体の例 傾き θ\theta の粗い斜面上を,質量 mm の物体が距離 Δx\Delta x だけ滑り降りた。動摩擦係数を μ\mu' とすると,物体の力学的エネルギーの差 ΔE\Delta E は次のように求める。

ΔE=μmgΔxcosθ\Delta E = -\mu' mg\Delta x \cos\theta
導出

斜面に沿って下向きに xx 軸をとる。垂直抗力を NN とすると,斜面に垂直な方向の力のつりあいより N=mgcosθN = mg\cos\theta であるため,動摩擦力は F=μmgcosθF = \mu' mg\cos\theta となる。 斜面下向きを正として運動方程式を立てると,

mdvdt=mgsinθFm\dfrac{dv}{dt} = mg\sin\theta - F

物体が位置 x1x_1 から x2x_2 まで滑り降り,速度が v1v_1 から v2v_2 へ変化したとして,両辺を xx で積分する。

x1x2mdvdtdx=x1x2(mgsinθF)dx\int_{x_1}^{x_2} m\dfrac{dv}{dt} \, dx = \int_{x_1}^{x_2} (mg\sin\theta - F) \, dx

左辺は運動エネルギーの変化 12mv2212mv12\dfrac{1}{2}m{v_2}^2 - \dfrac{1}{2}m{v_1}^2 となる。右辺は,

mg(x2x1)sinθF(x2x1)mg(x_2 - x_1)\sin\theta - F(x_2 - x_1)

ここで Δx=x2x1\Delta x = x_2 - x_1 とおき,滑り降りた高さを y1y2=Δxsinθy_1 - y_2 = \Delta x \sin\theta として置き換える。

12mv2212mv12=mg(y1y2)FΔx\dfrac{1}{2}m{v_2}^2 - \dfrac{1}{2}m{v_1}^2 = mg(y_1 - y_2) - F\Delta x

これを整理して,力学的エネルギー E=12mv2+mgyE = \dfrac{1}{2}mv^2 + mgy の形にまとめる。

(12mv22+mgy2)(12mv12+mgy1)=FΔx\left( \dfrac{1}{2}m{v_2}^2 + mgy_2 \right) - \left( \dfrac{1}{2}m{v_1}^2 + mgy_1 \right) = -F\Delta x

左辺は力学的エネルギーの変化量 ΔE\Delta E を表しており,右辺は摩擦力がした仕事 WFW_F を表している。

ΔE=μmgΔxcosθ\Delta E = -\mu' mg\Delta x \cos\theta

摩擦力は常に運動を妨げる向きにはたらくため,摩擦力がする仕事は負となる。すなわち,摩擦がある面を滑るとき,物体の力学的エネルギーは摩擦によって失われ(熱エネルギーなどに変換され),保存されないことが数学的に証明される。