2-1-2. 熱
Work and Internal Energy
断熱仕事の経路独立性
系を断熱壁で囲み,外界との熱のやり取りを遮断した状態(断熱過程)において,系をある平衡状態1から別の平衡状態2へと変化させる。このとき,外部から系に対してなされた仕事 は,変化の過程(経路)によらず,始点と終点の状態のみによって一意に決定される。
力学において,仕事 は一般に経路に依存する量であることを学んだ。例えば,摩擦のある床の上で物体を移動させる際,遠回りをすればそれだけ多くの仕事が必要になる。また,熱力学においても2-1-1. 仕事で計算した物体の仕事 も同様であり,どのように外部の圧力が変わるかによってその値は変化してしまう。
しかし,物理学者ジュールらは実験によって,外部の外界との相互作用を「断熱壁」による仕事だけに限定したとき,この経路依存性が消失するという極めて特殊な性質を発見した。
この事実は,数学的に非常に重要な意味を持つ。仕事が経路によらず始点と終点だけで決まるのであれば,それは重力の位置エネルギーと同様に,その物質が内部に蓄えている「貯金」の差額として解釈できることを示している。この発見こそが,目に見えないエネルギーの状態量である「内部エネルギー 」を定義することを可能にし,ひいては「熱」という正体不明なエネルギー移動を数理的に捕捉する唯一の手がかりとなったのである。
内部エネルギー
断熱状態における仕事と内部エネルギーの定義
外部との熱のやり取りがないとき,物体の内部エネルギーの変化量 は物体が外部にした仕事 を用いて次のように求める。
内部エネルギーの定義において最も重要な事実は,「断熱状態において外部からなされた仕事が,変化の経路によらない」という点である。 例えば,密閉された水に対して,スクリューを回してかき混ぜる(力学的な仕事)ことで温度を上昇させる場合でも,シリンダーを急激に押し込んで圧力を高める(力学的な仕事)ことで同じ温度に到達させる場合でも,最終的な状態が同じであれば,外部から投入しなければならない力学的な仕事の総量は完全に一致する。
この性質は,力学で学んだ「保存力」の性質と全く同じ構造を持っている。重力に逆らって物体を高い場所に移動させるとき,まっすぐ持ち上げても,斜面を迂回させても,必要な仕事が同じであったからこそ,その仕事の量を「位置エネルギー」という状態として定義できた。 これと全く同じ論理展開により,断熱状態での仕事が経路に依存しないという普遍的な事実を根拠として,物質がその状態の内部に持っているエネルギーを「内部エネルギー 」という状態量として定義することが数学的かつ物理学的に正当化されるのである。
気体がする仕事と内部エネルギー
前項で定義した「気体が外部にする仕事 」を用いてこの関係を書き直す。外部からされる仕事 は,気体が外部にする仕事 とは符号が逆の関係にある(作用反作用の法則に基づくエネルギーの視点)。すなわち である。 したがって,断熱壁で囲まれた気体が膨張して外部に仕事 をしたとき,内部エネルギーの変化は次のようになる。
これは,気体が自ら外部へ向かって仕事(例えばピストンを押し上げるなど)をした場合,その分のエネルギーは他でもない気体自身の内部エネルギーから支払われるため,気体の内部エネルギーは減少するという直感的な事実を数式化したものである。