1-3-2. 運動エネルギー

Kinetic Energy

運動エネルギー

公式

運動エネルギー

質量 mm,速度 vv で運動する物体が持つ,仕事をする能力としての運動エネルギー KK は次のように求める。 ただし空気抵抗などは考えなくてよいものとする。

K=12mv2K = \dfrac{1}{2}m{v}^2
導出

静止している物体に一定の向きに力 FF を与え続け,速度が vv になるまでにした仕事が,そのまま物体の持つ運動エネルギー KK になると考える。

物体について運動方程式を立てる。時刻 tt における物体の加速度 aa は速度 vv の時間微分 a=dvdta = \dfrac{dv}{dt} であるから,

mdvdt=Fm\dfrac{dv}{dt} = F

となる。両辺を位置 xx で積分する。仕事 WWW=FdxW = \int F \, dx で求められるから,

K=W=Fdx=mdvdtdxK = W = \int F \, dx = \int m\dfrac{dv}{dt} \, dx

ここで,微小な変位 dxdx は速度 vv を用いて dx=dxdtdt=vdtdx = \dfrac{dx}{dt} dt = v \, dt と表せることを用いて,積分変数を位置 xx から時刻 tt へ変換する。

K=mdvdtdx=mvdvdtdtK = \int m\dfrac{dv}{dt} \, dx = \int mv\dfrac{dv}{dt} \, dt

速度の2乗 v2v^2 を時刻 tt で微分すると,合成関数の微分の公式により ddt(v2)=2vdvdt\dfrac{d}{dt}(v^2) = 2v\dfrac{dv}{dt} となる。この関係式を変形した vdvdt=ddt(12v2)v\dfrac{dv}{dt} = \dfrac{d}{dt}\left(\dfrac{1}{2}v^2\right) を被積分関数に代入する。

K=mddt(12v2)dt=12mv2K = \int m \dfrac{d}{dt}\left(\dfrac{1}{2}v^2\right) \, dt = \dfrac{1}{2}mv^2

これにより,速度 vv で運動する物体が潜在的に持っている仕事の能力(運動エネルギー)が導出される。

説明

エネルギーとは,物体が他の物体に対してどれだけの仕事をすることができるかを示す状態量である。運動している物体は,他の物体に衝突して力を及ぼしながら移動させることができるため,運動エネルギーという形のエネルギーを保持しているといえる。

この式が示す重要な性質は,運動エネルギーが質量の1乗に比例し,速度の2乗に比例するという点である。自動車の運転などにおいて,速度が2倍になれば,ブレーキをかけてから停止するまでに摩擦力がしなければならない仕事(制動距離)は4倍になるという事実も,この速度の2乗に比例するという数学的な帰結から説明される。

運動エネルギーと仕事の関係

公式

運動エネルギーと仕事(1次元)

質量 mm の物体に力がはたらき,直線上を運動するその物体の速度が v1v_1 から v2v_2 まで変化したとき,物体にはたらいた合力がした仕事 WW は次のように求める。 ただし空気抵抗などは考えなくてよいものとする。

W=12mv2212mv12W = \dfrac{1}{2}m{v_2}^2 - \dfrac{1}{2}m{v_1}^2
導出

物体の速度が v1v_1 であるときの位置を x1x_1 (時刻 t1t_1),速度が v2v_2 であるときの位置を x2x_2 (時刻 t2t_2)とする。

物体に力 FF がはたらいているとして運動方程式を立てると,

mdvdt=Fm\dfrac{dv}{dt} = F

となる。仕事 WW を求めるため,この運動方程式の両辺を位置 xx について x1x_1 から x2x_2 まで定積分する。

W=x1x2Fdx=x1x2mdvdtdxW = \int_{x_1}^{x_2} F \, dx = \int_{x_1}^{x_2} m\dfrac{dv}{dt} \, dx

先ほどと同様に dx=dxdtdt=vdtdx = \dfrac{dx}{dt} dt = v \, dt を用いて,積分変数を位置 xx から時刻 tt へ変更する。このとき積分範囲は t1t_1 から t2t_2 へと対応して変化する。

W=x1x2mdvdtdx=t1t2mvdvdtdtW = \int_{x_1}^{x_2} m\dfrac{dv}{dt} \, dx = \int_{t_1}^{t_2} mv\dfrac{dv}{dt} \, dt

ここで vdvdt=ddt(12v2)v\dfrac{dv}{dt} = \dfrac{d}{dt}\left(\dfrac{1}{2}v^2\right) の関係式を用いて被積分関数を置き換える。

W=t1t2mddt(12v2)dtW = \int_{t_1}^{t_2} m \dfrac{d}{dt}\left(\dfrac{1}{2} v^2\right) \, dt

微積分学の基本定理より定積分を実行すると,

W=[12mv2]t1t2=12mv2212mv12W = \left[ \dfrac{1}{2}m{v}^2 \right]_{t_1}^{t_2} = \dfrac{1}{2}m{v_2}^2 - \dfrac{1}{2}m{v_1}^2

となり,力がした仕事が物体の運動エネルギーの変化量に等しいことが導かれる。

空間における運動エネルギー

公式

運動エネルギーと仕事の原理(ベクトル表示)

3次元空間内を曲線運動する質量 mm の物体がある。物体の速度ベクトルが v1\boldsymbol{v}_1 から v2\boldsymbol{v}_2 へ変化するまでの間に,物体にはたらく合力ベクトル F\boldsymbol{F} がした仕事 WW は次のように求める。

W=12mv2212mv12W = \dfrac{1}{2}m|\boldsymbol{v}_2|^2 - \dfrac{1}{2}m|\boldsymbol{v}_1|^2
導出

位置ベクトルを r\boldsymbol{r},速度ベクトルを v\boldsymbol{v} とすると,速度は位置の時間微分 v=drdt\boldsymbol{v} = \dfrac{d\boldsymbol{r}}{dt} である。また,空間を運動する物体の運動方程式は,加速度ベクトル dvdt\dfrac{d\boldsymbol{v}}{dt} を用いて次のように表される。

mdvdt=Fm\dfrac{d\boldsymbol{v}}{dt} = \boldsymbol{F}

このベクトル方程式の両辺に,速度ベクトル v\boldsymbol{v} との内積をとる。

mdvdtv=Fvm \dfrac{d\boldsymbol{v}}{dt} \cdot \boldsymbol{v} = \boldsymbol{F} \cdot \boldsymbol{v}

左辺について,ベクトルの自己内積(大きさの2乗)の微分の性質 ddtv2=ddt(vv)=2vdvdt\dfrac{d}{dt}|\boldsymbol{v}|^2 = \dfrac{d}{dt}(\boldsymbol{v} \cdot \boldsymbol{v}) = 2 \boldsymbol{v} \cdot \dfrac{d\boldsymbol{v}}{dt} を用いると,左辺は ddt(12mv2)\dfrac{d}{dt} \left( \dfrac{1}{2}m|\boldsymbol{v}|^2 \right) と変形できる。 右辺については,v=drdt\boldsymbol{v} = \dfrac{d\boldsymbol{r}}{dt} と書き換える。

ddt(12mv2)=Fdrdt\dfrac{d}{dt} \left( \dfrac{1}{2}m|\boldsymbol{v}|^2 \right) = \boldsymbol{F} \cdot \dfrac{d\boldsymbol{r}}{dt}

物体の速度が v1\boldsymbol{v}_1 である時刻を t1t_1,速度が v2\boldsymbol{v}_2 である時刻を t2t_2 とし,この両辺を時刻 t1t_1 から t2t_2 まで定積分する。

t1t2ddt(12mv2)dt=t1t2Fdrdtdt\int_{t_1}^{t_2} \dfrac{d}{dt} \left( \dfrac{1}{2}m|\boldsymbol{v}|^2 \right) \, dt = \int_{t_1}^{t_2} \boldsymbol{F} \cdot \dfrac{d\boldsymbol{r}}{dt} \, dt

左辺はそのまま積分が実行され, 12mv2212mv12\dfrac{1}{2}m|\boldsymbol{v}_2|^2 - \dfrac{1}{2}m|\boldsymbol{v}_1|^2 となる。 右辺は,時間積分から経路に沿った線積分へと変換され, CFdr\int_C \boldsymbol{F} \cdot d\boldsymbol{r} となる。これはまさに,経路 CC に沿って力 F\boldsymbol{F} が物体に対してなした仕事 WW の定義式である。 これにより,空間中のどのような複雑な経路をたどる場合であっても,物体にはたらく合力がした仕事の総和は,純粋に速度の大きさの2乗の変化のみによって決定されることが数学的に証明される。

公式

運動エネルギーの時間変化率と仕事率

運動エネルギー K=12mv2K = \dfrac{1}{2}m|\boldsymbol{v}|^2 の時間的変化の割合(時間微分)は,物体にはたらく合力 F\boldsymbol{F} がする仕事率 PP に等しく,次のように表される。

dKdt=P\dfrac{dK}{dt} = P
導出

運動エネルギー K=12m(vv)K = \dfrac{1}{2}m(\boldsymbol{v} \cdot \boldsymbol{v}) を時間 tt で微分する。積の微分の公式を用いてベクトルの内積を微分すると,次のようになる。

dKdt=12m(dvdtv+vdvdt)=m(vdvdt)\dfrac{dK}{dt} = \dfrac{1}{2}m \left( \dfrac{d\boldsymbol{v}}{dt} \cdot \boldsymbol{v} + \boldsymbol{v} \cdot \dfrac{d\boldsymbol{v}}{dt} \right) = m \left( \boldsymbol{v} \cdot \dfrac{d\boldsymbol{v}}{dt} \right)

内積は順序を入れ替えても値が変わらないため,v\boldsymbol{v}mdvdtm \dfrac{d\boldsymbol{v}}{dt} の内積としてまとめることができる。

dKdt=v(mdvdt)\dfrac{dK}{dt} = \boldsymbol{v} \cdot \left( m \dfrac{d\boldsymbol{v}}{dt} \right)

ここで,ニュートンの運動方程式より mdvdtm \dfrac{d\boldsymbol{v}}{dt} は物体にはたらく合力 F\boldsymbol{F} に等しいため,この部分を F\boldsymbol{F} に置き換える。

dKdt=vF=Fv\dfrac{dK}{dt} = \boldsymbol{v} \cdot \boldsymbol{F} = \boldsymbol{F} \cdot \boldsymbol{v}

前節「仕事」で定義したように,力ベクトルと速度ベクトルの内積 Fv\boldsymbol{F} \cdot \boldsymbol{v} は,その瞬間に力が物体になしている仕事率 PP に他ならない。したがって,運動エネルギーの時間的変化の割合は,加えられている仕事率そのものであることが導出される。

この関係式は,自動車のエンジンが発揮するパワー(仕事率)が,どれだけのペースで車体を加速させ(運動エネルギーを増加させ)ることができるかなど,現実の機械の性能や力学的な応答を評価する際の基礎となる。