1-4-2. 運動量保存則
Law of Conservation of Momentum
運動量保存則の基礎
運動量保存則
質量がそれぞれ , であるような2つの物体が衝突して速度が変化したとき,それぞれの物体の速度を , とすると,衝突の前後において次の関係式が成り立つ。 ただし,2物体からなる系に外力ははたらいておらず,重力および空気抵抗などの影響は考えなくてよいものとする。
速度 で運動していた質量 の物体が,速度 で運動していた質量 の物体に衝突し,衝突後の速度がそれぞれ , となったとする。
衝突している最中の微小な時間 において,物体間で及ぼし合う力について考える。物体 が物体 に作用させた力を とすれば,ニュートンの運動の第三法則(作用反作用の法則)によって,物体 から物体 に対しては同じ大きさで逆向きの力 がはたらく。
それぞれの物体に対して運動方程式を立てると次のようになる。
力 が時刻 から まで作用していたとする。時間間隔を として,両辺を時刻 で積分し,運動量と力積の関係式を導く。
ここで,物体 が受けた力積と物体 が受けた力積は,大きさが等しく符号が逆であるため,2つの式を辺々足し合わせることで力積の項(内力が及ぼす影響)が完全に相殺される。
この式を,衝突前の状態(添え字 )と衝突後の状態(添え字 )で整理すると,次のようになる。
これにより,物体同士がどのような力を及ぼし合おうとも,系全体としては運動量の総和が変化せず,常に一定に保たれることが数学的に証明される。
運動量保存則が成り立つための唯一かつ絶対の条件は,対象とする物体の集まり(系)に対して外部から力(外力)がはたらいていない,あるいは外力の和がゼロであることである。
エネルギー保存則の場合,摩擦力や空気抵抗などの非保存力がはたらくと力学的エネルギーが熱などの他の形に変換されて失われてしまう。しかし,運動量にはそのような「別の形」が存在しない。系内部の物体同士の摩擦力であっても,それは作用反作用の法則に従う内力に過ぎないため,運動量の総和には一切影響を与えないのである。この性質により,エネルギーが失われるような激しい衝突や,物体が粉々に砕け散るような爆発現象であっても,運動量保存則は極めて厳密に成立し,物理学における最も信頼性の高い解析手法の一つとなっている。
運動量保存則と重心の速度
複数の物体間で運動量保存則が成り立っているとき,系全体の重心は常に等速直線運動(または静止)を続ける。
質量 の 個の物体からなる系を考える。それぞれの物体の速度を とすると,系全体に外力がはたらかない場合,全運動量は一定に保たれる。
一方で,この系の重心の速度 は,各物体の速度を質量で加重平均したものとして次のように定義される。
この式の分子はまさに系の全運動量であり,分母は系の総質量である。全運動量が一定であり,総質量も一定であるならば,その比である重心の速度 もまた時間によらず一定となる。
したがって,系内部で物体同士が複雑に衝突や分裂を繰り返して各物体の速度が激しく変化したとしても,系全体を代表する点である重心の運動状態は外部から力を受けない限り決して変化しないことが導かれる。
衝突と一体化
物体の上に滑り乗る小物体
なめらかな水平面上に質量 の物体が静置されている。この物体の上に,初速 を与えられた質量 の小物体が滑り乗った。小物体と物体の間には動摩擦係数 の摩擦がはたらいており,しばらく滑ったのち,小物体は物体に対して静止し,両者は一体となって運動を始めた。
小物体が物体に乗り移ってから,物体に対して静止するまでに要した時間 は次のように求める。 ただし重力加速度を とし,空気抵抗は考えないものとする。
水平右向きを正の向きとする。小物体が物体の上に乗り移った直後から,小物体は進行方向と逆向きに動摩擦力を受け,物体はその反作用として進行方向と同じ向きに動摩擦力を受ける。 小物体が物体から受ける垂直抗力を とすると,鉛直方向の力のつりあいより である。したがって,動摩擦力の大きさは となる。
この系全体(小物体と物体)には水平方向の外力がはたらいていないため,運動量保存則が成り立つ。両者が一体となったときの共通の速度を とすると,
となる。次に,小物体単体に注目して運動量と力積の関係を考える。小物体は速度が から に減少するまでの時間 の間,負の向きに一定の動摩擦力 を受け続ける。
この式に先ほど求めた共通速度 を代入して整理する。
左辺を でくくり,通分して計算を進める。
したがって,次の方程式が得られる。
両辺のマイナスと質量 を消去し, について解くことで,物体が相対的に静止するまでの時間が導出される。
この結果は,質量 が大きいほど(下の物体が動きにくいほど),あるいは初速 が大きいほど,一体化するまでに長い時間を要することを論理的に示している。
物体の分裂と相対速度
物体の分裂と対地速度
速度 で運動している質量 の物体が分裂し,質量 の小物体を切り離した。切り離された小物体は,元の物体から見て相対速度 で遠ざかっていったとする。
分裂後の小物体の対地速度地上から見た分裂後の小物体の速度 は次のように求める。
分裂後の残りの物体の対地速度地上から見た分裂後の残りの物体(質量 )の速度 は次のように求める。
分裂前後の系全体について,外力ははたらかないものとして運動量保存則を立てる。分裂前の運動量は であり,分裂後の小物体(質量 )の対地速度を ,残りの物体(質量 )の対地速度を とすると,
が成り立つ。また,小物体が残りの物体に対して相対速度 で遠ざかるという条件は,観測対象の速度から観測者の速度を引くという相対速度の定義より,
と表される。この2つのベクトル方程式を連立して解く。
小物体の対地速度の導出
相対速度の式を と変形し,運動量保存の式に代入する。
これを について整理すると,
が導かれる。
残りの物体の対地速度の導出
相対速度の式を と変形し,同様に運動量保存の式に代入する。
これを について整理すると,
となり,切り離しによる反作用で残りの物体が元の進行方向からどのように速度を変化させるかが求められる。
n個の物体の連続的な分裂(ロケット推進の基礎)
最初静止している質量 の物体に,質量 の微小な小物体が 個結合している系を考える。この小物体を一つずつ,本体に対する相対速度 で後方へ切り離していく。 すべての小物体(合計 個)を切り離し終わったあとの本体の速度 は,小物体が十分に小さく( ),分割数 が十分に大きいと近似した場合,次のように求められる。
(※元の質量が であり,最終的な質量が であることに対応する)
個目の小物体を切り離したあとの,本体(およびまだ結合している残りの小物体)の速度を とおく。 次に 個目の小物体を切り離す直前の本体の質量は,最終的な質量 に残りの小物体 個分を加えた である。
この状態から質量 の小物体1つを相対速度 で切り離す。切り離された瞬間の小物体単体の対地速度は,本体の新しい速度 から見て であるため, と表せる。 外力がはたらかないため,この一回の切り離し前後で運動量保存則を立てる。
右辺を展開して整理する。
この式から,1回の切り離しによる本体の速度変化量 を求めることができる。
最初は静止していたため である。 回の切り離しがすべて終わった後の最終的な速度 は,各ステップの速度変化をすべて足し合わせたものになる。
ここで, が非常に小さく, が非常に大きいという条件のもとで,この和を積分によって近似する。離散的な変数 を連続変数 とみなし, から まで積分する。
分母の形に着目し,置換積分あるいは自然対数への積分公式を用いる。分母を微分すると となるため,
対数の性質 を用いてまとめることで,最終的な速度が導出される。
この導出は,ロケットが燃料となるガスを後方へ連続的に噴射しながら加速していく原理(ツィオルコフスキーのロケット方程式)の根幹をなす数学的プロセスである。
平面内の弾性衝突(散乱)
散乱角と衝突後の速度
なめらかな水平面上( 平面)において, 軸の正の向きに速度 で運動していた質量 の物体Aが,原点で静止していた質量 の物体Bに弾性衝突し,それぞれ異なる方向へ散乱した。
衝突後の物体Aの速度を ,物体Bの速度を とし,それぞれの進行方向が 軸となす角(散乱角)を とする。
散乱角の関係式2つの散乱角の和について,次の関係式が成り立つ。
衝突後の物体Bの速度衝突後の物体Bの速さ は次のように求める。
外力がはたらかないため運動量保存則が成り立ち,弾性衝突であるため運動エネルギーも保存される。衝突後の速度の大きさをそれぞれ として式を立てる。
基礎となる方程式運動量保存則を 成分と 成分に分けて記述する。
(※物体Bは 軸より下へ散乱すると設定し,角度 を正の量として 軸成分にマイナスをつけている)
運動エネルギー保存則は次のように表される。
散乱角の関係式の導出
運動量保存則の2つの式を変形し, を含む項を分離する。
これら2式の両辺をそれぞれ2乗して足し合わせる。左辺は により整理される。
同様の手順で,今度は を含む項を孤立させてから両辺を2乗して足し合わせる。
①式と②式から および に関する項を取り出し,三角関数の加法定理 を構築する過程を経て整理すると,最終的にエネルギー保存則を用いて を消去することで,以下の関係が導出される。
(※特に のとき,右辺が となるため ,すなわち衝突後の2物体は常に直角に散乱( )するというビリヤードの球などで見られる有名な性質が導かれる)
衝突後の物体Bの速度の導出
先ほど導いた②式に着目する。
一方で,運動エネルギー保存則の両辺に を掛けて整理すると,
となる。これを②式の左辺に代入する。
両辺から を消去し, として全体を で割る。
これを について整理することで,目的の式が導出される。