1-4-1. 運動量・力積

Momentum and Impulse

運動量

定義

運動量

質量 mm の物体が速度 vv で運動しているとき,その物体の運動の勢いを表す量としての運動量 pp は次のように表す。

p=mvp = mv
説明

運動量とは,物体の質量と速度を掛け合わせた物理量であり,物体がどの程度の勢いで運動しており,他の物体に衝突した際にどれほどの影響を及ぼすかを示す指標となる。

運動エネルギーが 12mv2\frac{1}{2}mv^2 というスカラー量(大きさのみを持つ量)であり,向きの情報を持たないのに対し,運動量は速度と同じ向きを持つベクトル量であるという点が本質的に異なっている。例えば,大きさが同じで向きが正反対の速度を持つ二つの物体は,運動エネルギーは等しいが,運動量は全く異なる(符号が逆になる)状態として区別される。この方向性の保持こそが,後に学ぶ衝突問題や分裂問題を解析する上での極めて強力な武器となる。

公式

運動量ベクトル

3次元空間内を速度ベクトル v\boldsymbol{v} で運動する質量 mm の物体の運動量ベクトル p\boldsymbol{p} は次のように表す。

p=mv\boldsymbol{p} = m\boldsymbol{v}
導出

デカルト座標系( x,y,zx, y, z 軸)において,速度ベクトルを成分表示すると v=(vx,vy,vz)\boldsymbol{v} = (v_x, v_y, v_z) となる。それぞれの軸方向について,その方向の運動の勢い(成分運動量)を考えると,質量 mm を各速度成分に乗じた値となる。

p=m(vxvyvz)=(mvxmvymvz)=(pxpypz)\boldsymbol{p} = m \begin{pmatrix} v_x \\ v_y \\ v_z \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} mv_x \\ mv_y \\ mv_z \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} p_x \\ p_y \\ p_z \end{pmatrix}

これにより,空間内の任意の方向への運動の勢いが,一つのベクトル方程式として統合して記述される。

力積

定義

力積

物体に一定の力 FF を時間 Δt\Delta t だけ加えたとき,その力の効果を表す量としての力積 II は次のように表す。

I=FΔtI = F \Delta t
説明

力積は,物体にどれだけの「衝撃」を与えたかを表す物理量である。同じ大きさの力であっても,それを加える時間が長ければ長いほど,物体に与える速度の変化は大きくなる。

日常の現象,例えば野球のバットでボールを打つ瞬間や,地面に着地する瞬間などは,力が非常に短い時間のうちに劇的に変化する。このような場合,個々の瞬間の力の値を知ることは困難だが,その力が時間全体を通して及ぼした「合計の効果」を力積として捉えることで,物体の運動の変化を明快に説明することが可能になる。

公式

力積(積分形とベクトル)

物体に時刻 t1t_1 から t2t_2 まで力ベクトル F(t)\boldsymbol{F}(t) がはたらくとき,物体が受ける力積 I\boldsymbol{I} は次のように求める。

I=t1t2F(t)dt\boldsymbol{I} = \displaystyle \int_{t_1}^{t_2} \boldsymbol{F}(t) \, dt
導出

力が時間とともに変化する場合,一定の力 FF の定義式 I=FΔtI = F\Delta t をそのまま適用することはできない。そこで,時間を極めて短い微小時間 dtdt に分割して考える。

微小な時間 dtdt の間にはたらく力はほぼ一定であるとみなせるため,その間になされた微小な力積は dI=F(t)dtd\boldsymbol{I} = \boldsymbol{F}(t) dt と書ける。時刻 t1t_1 から t2t_2 までの全区間にわたって,これら無数の微小な力積を足し合わせる操作を行う。これは数学的には時間による定積分に他ならない。

I=t1t2dI=t1t2F(t)dt\boldsymbol{I} = \displaystyle \int_{t_1}^{t_2} d\boldsymbol{I} = \displaystyle \int_{t_1}^{t_2} \boldsymbol{F}(t) \, dt

各成分について考えれば,

I=(FxdtFydtFzdt)=(IxIyIz)\boldsymbol{I} = \begin{pmatrix} \displaystyle \int F_x dt \\ \displaystyle \int F_y dt \\ \displaystyle \int F_z dt \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} I_x \\ I_y \\ I_z \end{pmatrix}

となり,力ベクトルを時間で積分した結果が,全方向の衝撃を統合した力積ベクトルとなることが導かれる。

運動量と力積の関係

公式

運動量と力積の関係式

質量 mm の物体に力 F\boldsymbol{F} がはたらき,時刻 t1t_1 (速度 v1\boldsymbol{v}_1 )から時刻 t2t_2 (速度 v2\boldsymbol{v}_2 )まで変化したとき,次の関係式が成り立つ。

mv2mv1=t1t2Fdtm\boldsymbol{v}_2 - m\boldsymbol{v}_1 = \displaystyle \int_{t_1}^{t_2} \boldsymbol{F} \, dt
導出

この関係式は,ニュートンの運動方程式から直接導き出すことができる。質量 mm の物体について運動方程式を立てると,加速度は速度の時間微分 dvdt\dfrac{d\boldsymbol{v}}{dt} であるから,

mdvdt=Fm\dfrac{d\boldsymbol{v}}{dt} = \boldsymbol{F}

となる。ここで,この式の両辺を時刻 tt について t1t_1 から t2t_2 まで定積分する。

t1t2mdvdtdt=t1t2Fdt\displaystyle \int_{t_1}^{t_2} m\dfrac{d\boldsymbol{v}}{dt} \, dt = \displaystyle \int_{t_1}^{t_2} \boldsymbol{F} \, dt

左辺について,微積分の基本定理を適用すると,

t1t2mdvdtdt=[mv]t1t2=mv2mv1\displaystyle \int_{t_1}^{t_2} m\dfrac{d\boldsymbol{v}}{dt} \, dt = \left[ m\boldsymbol{v} \right]_{t_1}^{t_2} = m\boldsymbol{v}_2 - m\boldsymbol{v}_1

が得られる。右辺は定義により力積 I\boldsymbol{I} そのものである。したがって,

mv2mv1=Im\boldsymbol{v}_2 - m\boldsymbol{v}_1 = \boldsymbol{I}

となり,「物体の運動量の変化は,その間に物体が受けた力積に等しい」という極めて重要な法則が導出される。

説明

力の積分:空間と時間の対比

物理学において,ニュートンの運動方程式 F=maF = ma を積分するアプローチには二つの王道が存在する。一つは「空間(位置)」による積分であり,もう一つは「時間」による積分である。

前節で学んだ「仕事とエネルギー」の関係は,力を位置で積分( Fdx\displaystyle \int F dx )することで導かれた。これにより,力のはたらく「距離」が物体の「速さの2乗」にどう影響するかが示された。 一方で,本節の「力積と運動量」の関係は,力を時間で積分( Fdt\displaystyle \int F dt )することで導かれた。こちらは,力のはたらく「時間」が物体の「速度(ベクトル)」そのものにどう影響するかを示している。

実は,アイザック・ニュートンが『プリンキピア』において最初に運動方程式を提示した際,その記述は「力の大きさは運動量の時間変化率に等しい」という F=dpdt\boldsymbol{F} = \dfrac{d\boldsymbol{p}}{dt} の形であった。つまり,物理学の歴史においては,加速度を用いる F=ma\boldsymbol{F}=m\boldsymbol{a} よりも,運動量の変化を追跡する視点の方がより根源的な定義として扱われてきたのである。

力が位置の関数(重力や弾性力)であるときはエネルギーの視点が有効であり,力が時間の関数であったり,非常に短時間に強い力が加わる(打撃や衝突)ときには運動量の視点が圧倒的に有利となる。現象に応じてこれら二つの積分の視点を使い分けることが,力学を深く理解する鍵となる。